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国際刑事裁判所に対する不当な圧力に反対することを
日本政府に求める理事長声明

  1. 国際刑事裁判所(International Criminal Court、以下「ICC」という。)は国際的な重大犯罪(ジェノサイド犯罪、人道に対する犯罪、戦争犯罪及び侵略犯罪)について、個人の刑事責任を追及することを目的として、オランダ・ハーグに設置された裁判所である。

  2. 国際的な重大犯罪が起こった場合、様々な理由により、直接の当事者国において責任者の刑事処罰が困難となるケースが多い。そこで、これまで旧ユーゴスラビア国際犯罪法廷、ルワンダ国際犯罪法廷、カンボジア特別法廷等など、重大犯罪に対し個人の刑事責任を追及する時限的な法廷が、国際社会の協力のもとに設置されてきた。ICCは、これらの経験を踏まえ、国際連合全権外交使節会議において採択されたローマ規程に基づき2002年に設置されるに至った、世界初の常設の国際刑事司法機関である。

  3. 2025年4月時点でのICCの加盟国・地域は125を数え、これまで14件の重大犯罪に対して最終判断を下してきた。その多くはアフリカ諸国における重大犯罪だが、2023年3月には、ウクライナ侵攻をめぐり多数の子どもをロシア国内に連れ去った戦争犯罪の容疑でロシアのプーチン大統領らへ逮捕状を発付、2024年11月には、民間人に対する食料や医薬品等の搬入を妨害し飢餓を戦争手段としたこと等を理由とした戦争犯罪及び人道に対する犯罪の容疑でイスラエルのネタニヤフ首相らへ逮捕状を発布、2025年3月には、フィリピン国内の薬物犯罪に対する強硬な取り締まりを主導し、不当な手段で大量の死傷者を出したことを理由とした人道に反する犯罪の容疑でフィリピン共和国のドゥテルテ元大統領へ逮捕状を発布するなど、近年、その活動範囲は広がっており、国際社会におけるICCの重要性は一段と増している。

  4. 日本は、2007年10月にICCへの加盟を果たした後、現在に至るまでICCの最大の拠出金分担国となっている。人材面においても、これまで3人の日本人判事を送り出しており、現在のICCの所長は日本人である赤根智子氏が務めている。

  5. そのICCに対し、各国が不当な圧力を強めてきている。前述のプーチン大統領らへの逮捕状の発布に対し、ロシアは、ICCの主任検察官であるカリム・カーン氏や、逮捕状発付を認めた当時のICC予審部の裁判官であった赤根智子氏らを指名手配した。さらに、前述のネタニヤフ首相らへの逮捕状の発付に対し、アメリカ合衆国のトランプ大統領は、2025年2月6日、同盟国であるイスラエルに対する非合法で根拠のない行動であるとして、ICC及びその関係者への制裁を可能とする大統領令に署名し、その付属文書によりカリム・カーン氏を制裁対象者として指定した。これにより、ICC関係者に対して現実に制裁が科されることとなってしまった。

  6. 当該大統領令に対しては、ICCに加盟する79の国と地域が「国際秩序と安全保障の促進に不可欠な国際的な法の支配を脅かす」として共同で非難声明を発表した。しかしながら、日本政府は当該共同声明に加わらなかった。

  7. 日本国憲法は、前文において「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。」「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」「われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。」と記載しており、人類全体の平和と人間の尊厳の維持を目指すこと、そのために国際社会において日本が重大な役割を果たしていくことは、まさに日本国憲法が目指す理念そのものである。

  8. ICCまたはその関係者に対する制裁により、ICCが機能しなくなることは、国際的な重大犯罪を国際社会が放置し、「不処罰の文化」を許容することにつながりかねず、日本国憲法が目指す理念の障害となる。したがって、ICCの活動を支援し、これに対する不当な圧力に対して反対していくことは、立憲主義の下で日本国政府が果たしていかなければならない責務である。

  9. そこで、当弁連は、日本国政府に対し、@ICCの活動に対する支持を対外的に表明すること、及びAICCまたはその関係者への制裁に対して明確に反対する立場を表明し、制裁に反対した他国と共同しながら、制裁を発動した各国に対して制裁を撤回するよう働きかけることを求める。

  10. それと同時に、当弁連は、弁護士の使命が基本的人権の擁護と社会正義の実現にあることを踏まえ、国際社会が戦後目指してきた国際的な法の支配の下、人類全体の平和と人間の尊厳の維持を実現していくために、ICCの活動を支援し、協力していくことをここに表明する。

以 上


2025(令和7)年9月2日
中部弁護士会連合会      
    理事長 菊   賢 一



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