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全面的国選付添人制度の実現を目指す決議・提案理由

1 少年事件における弁護士付添人の必要性

そもそも、少年は成人に比し精神的に未熟なため取調に迎合しやすいことから、虚偽の自白を押しつけられ冤罪が生じる危険性があるなど、否認事件における弁護士付添人の必要性は成人刑事事件の弁護人に比し劣るものではありません。さらに、自白事件においても、家庭・交友関係等の環境調整の必要が高いこと等から、やはり弁護士付添人による少年への援助が強く求められています。しかしながら、少年事件における弁護士付添人の選任率は、少年鑑別所にて身柄を拘束されている事件についてさえ約33%(2007年)にすぎず、成人の被告人のほとんどに弁護人が選任されていることに比べ著しく均衡を失しています。

さらに、2009年5月21日から、被疑者国選の対象事件が必要的弁護事件に拡大され、少年たる被疑者にも国選弁護人が多く付されることとなりました。少年事件においては、成人のように起訴猶予の制度がなく、原則として全ての事件が家庭裁判所に送致される全件送致主義がとられていることも考え合わせれば、被疑者国選が大幅に拡大された現状において、少年審判手続における弁護士付添人の関与の必要性は、極めて大きいといわざるを得ません。

2 国選付添人制度の現状

それにもかかわらず、現状の国選付添人制度では、検察官関与ないし被害者傍聴のある事件以外では、対象事件が、故意の行為により被害者を死亡させた事件か、死刑または無期もしくは短期2年以上の懲役または禁錮にあたる罪に限られている上、家庭裁判所の裁量によるものとされており、対象事件は極めて限定的です。

2007年度に少年審判を受けた少年の総数5万9697名のうち観護措置決定を受けた少年は1万2391名にのぼりますが、2007年11月から2008年8月までの10ヶ月間における国選付添人対象事件数は、わずか579件(12か月に換算すると694.8件)にすぎません。すなわち、現状の国選付添人制度は、観護措置決定がなされる少年事件の5〜6%程度を対象としているにすぎないのです。さらに、上記国選付添人対象事件のうち、実際に弁護士付添人が選任されたケースは484件(うち国選付添人300件)であり、弁護士付添人の選任率は83.6%にとどまっています。

以上の通り、現状の国選付添人制度は、身柄拘束を受けている少年に弁護士付添人の選任を確保する制度とは到底いえません。

3 日弁連の少年付添人法律援助事業の現状

日弁連は、国選付添人制度が極めて貧弱であるところから、資力がないため私選の付添人を選任できない多くの少年らに弁護士付添人の選任の機会を保障する制度として、少年付添人法律援助事業(かつて財団法人法律扶助協会が行っていた付添扶助事業)を日本司法支援センター(法テラス)に委託して行っています。この少年付添人法律援助制度により、2007年度には、全国で観護措置決定を受けた少年事件のうち4149件について弁護士付添人が選任されていますが、その選任率は、前述の通り約33%にすぎません。また、刑事処分相当の検察官送致決定や少年院送致決定等の重大な処分を受けた少年事件においても、弁護士付添人は40%程度しか選任されていません。

その結果、多くの少年が、弁護士付添人による援助を受けることなく、自分自身や家庭に問題を残したまま、少年院送致等の重大な処分を受ける結果となっているのです。

また、この法律援助制度は、2008年12月に日弁連が設立した「少年・刑事財政基金」を財源としていますが、かつての「当番弁護士等緊急財政基金」同様、全国の弁護士が拠出する特別会費により運営されています。しかし、弁護士付添人の選任を保障する制度は、適正手続を確保しつつ少年の健全育成を図るものであって、本来国費により運営されるべきものです。また、後述のとおり、被疑者国選弁護の拡大と付添人選任態勢の拡充により法律援助制度の利用による付添人選任数が増加することが見込まれますから、弁護士の手弁当による制度運営では財政的に破綻するおそれを否定できず、国費による安定的な制度運営が不可欠といえます。

4 「全面的国選付添人制度」の必要性

今般、被疑者国選弁護の拡大により、被疑者段階においては弁護士の援助を受けられる少年が増加しましたが、これにより、少年審判手続においても引き続いて弁護士の援助を求める要請も当然強まります。ことに、少年鑑別所において身柄拘束を受けている少年については、原則4週間という厳格な期間制限が存する一方で、少年院送致等の厳しい処分が見込まれるケースが少なくないことから、短期間のうちに、少年との信頼関係の構築、少年の内省の促進、家庭環境の整備、就職先の確保、被害弁償等の活動をしなければならず、専門的な知識と経験を有する弁護士付添人の必要性は高いといえます。したがって、少年審判手続に移行した途端、弁護士の援助が受けられなくなるという「置き去り」の少年を決して生み出させないことが必要です。

上記のとおり、観護措置決定を受ける少年の数は年間1万人を超えます。少なくともその全てに付添人選任の機会を恒久的に保障するためには、弁護士自身の負担ではなく国費による「全面的国選付添人制度」が必要なのです。

「全面的国選付添人制度」実現に関する取り組みは、すでに全国レベルで始まっています。まず、日弁連は、2007年の人権擁護大会において「全面的な国選付添人制度の実現を求める決議」を採択し、併せて全国の単位会は、付添人制度の拡充に取り組んできました。その結果、ほぼ全国において、身柄拘束を受けている少年が弁護士付添人の選任を求めることができる「当番付添人制度」を実施しています。ただ、対象事件を限定している単位会も散見され、未だ対応態勢が全国的に確立したとまでは言い難い状況です。

5 「全面的国選付添人制度」実現に向けて

しかしながら、被疑者国選弁護の対象事件が拡大した現在、「置き去り」の少年を生み出させないよう、全面的国選付添人制度を実現することは、緊急の課題です。そこで、「全面的国選付添人制度」実現に向けて、当連合会は以下の4つの提言をします。

まず、対象事件を被疑者国選と同様に必要的弁護事件まで拡大する立法が必要であり、付添人活動の意義を広く市民に知らしめる広報活動やマスコミへの働きかけ、国会議員や政党との意見交換等、立法化に向けた活動を開始することを提言します(提言1)。

全面的国選付添人制度が実現されるまでの間も、身柄拘束を受けている少年が弁護士の援助を受けられることができるよう、対象事件や年齢を限定しない全面的な当番付添人制度の実施や、会員に対する付添人活動の意義の周知・付添人活動の研修の実施等、各単位会における弁護士の対応態勢の拡充を図ることを提言します(提言2)。

さらに、各単位会が、当番付添人制度の実際の運用方法等に関する情報等を相互に共有し、また研修を共同で開催するなどして、各単位会が相協力して制度の充実と弁護士の能力向上に努めることを提言します(提言3)。

そして、これらに加えて、身体拘束事件全件を対象とする「全面的国選付添人制度」の実現に向け、現状の国選付添人制度の運用状況の検証、裁判所との協議、データの集約と分析、これらを踏まえた市民への広報活動および立法活動、全単位会における対応態勢の確立等の新たな取り組みを模索し、実行することを提言します(提言4)。

6 最後に

保護・教育的処遇を目指す少年事件において、弁護士付添人は、少年に寄り添ってその権利を擁護し、鑑別所技官、家庭裁判所調査官等少年事件に係わる人たちと連携して、少年の健全育成を図るものとされています。

このような弁護士付添人の必要性は、成人の刑事事件における弁護人に比して劣ることはありません。それにもかかわらず、成人の刑事事件については被疑者段階から広く国選弁護人が選任されることとなった一方で、少年については国選付添人制度の拡大がなされず、「置き去り」にされています。

このような不均衡をできるだけ早期に是正し、少年が弁護士による援助を十分に受けられるよう、全面的国選付添人制度の実現に向け、当連合会も全力をあげて前項に挙げた活動に取り組むことを決意し、本決議をします。


以 上




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