中部弁護士会連合会

中弁連からのお知らせ

悪質商法被害を根絶するため割賦販売法及び
特定商取引法の抜本的改正を求める決議・提案理由

1 はじめに

消費者信用市場は76兆円を超えるが、そのうち、消費者金融が約33兆円、販売信用が約43兆円となっている。消費者金融のうち約14兆2000億円と言われる貸金業の分野については、昨年、日弁連をはじめとする関係団体による精力的な取り組みが効を奏し、貸金業規制法の抜本的改正の実現を見るに至った。これに対し、販売信用の分野については、全体の約2割の取引高にとどまる契約書型クレジット(個品割賦購入あっせん)による被害が販売信用のトラブル全体の約8割を占めるなど、その被害が多発しており、その対策が緊急の課題となっている。

2 目に余る悪質商法の横行

一昨年に埼玉県富士見市で発生したリフォーム工事次々販売被害は、判断能力や気力が低下した高齢者に対し必要性のない工事をクレジットを利用して次々と契約させるという手口であり、人の弱みにつけ込む許しがたい違法行為である。同様に、障害者がクレジットを利用した布団や呉服などの次々販売の被害に遭うケースも続発している。また、内職・モニター商法や絵画レンタル商法などの詐欺商法被害も繰り返し発生している。

高齢者の生活の平穏を確保することが社会全体の重要な課題となっているにもかかわらず、全国の消費生活センターに寄せられる苦情相談データ(PIO−NET)によれば、特定商取引法の適用対象である取引形態に関する苦情相談だけで、年間85万4242件(2005年度)にのぼり、とりわけ契約当事者が70歳以上の高齢者の相談件数は、2000年度4万3336件、2001年度5万6915件、2002年度7万6576件、2003年度9万9033件、2004年度12万9383件、2005年度13万8526件と、増加の一途をたどっている。

国及び都道府県は、ここ数年、特定商取引法に基づく行政処分権限を積極的に発動しており、指示及び業務停止命令の処分件数は、2002年度20件、2003年度25件、2004年度26件、2005年度40件、2006年度80件と、大幅に増加している。それにもかかわらず、悪質商法被害はますます増加傾向をたどっているのである。

このように、消費者を食い物にする今日の悪質商法被害は目に余るものがある。

3 悪質商法を助長するクレジット

こうした悪質商法被害の背景には、クレジット会社が悪質販売業者と提携してクレジットの利用を提供し、消費者の支払能力を超える過剰与信を繰り返すことにより、高額かつ深刻な被害の発生を助長しているという実態がある。

例えば、消費者の支払能力を無視した次々販売に対する与信を承認する判断は、クレジット会社自身が審査判断していることであり、埼玉県富士見市のリフォーム商法事件において高齢者の自宅に競売申立を行ったのはクレジット会社である。また、内職・モニター商法や絵画レンタル商法は、クレジット会社が加盟店を十分に審査することなく販売業者に資金(立替金)を供給し、消費者に対する取立人の役割を果たすことによって、詐欺商法が成り立っているのである。

経済産業省は、クレジット会社に対し、加盟店管理の強化を求める通達・行政指導を永年にわたり繰り返し発してきたが、その実効性が得られていないことは今日のクレジットに関連する悪質商法被害の増加を見れば、明らかである。

4 現行法の不備

こうした現状は、クレジット取引に対する割賦販売法及び訪問販売活動に対する特定商取引法の規制内容が決定的に不備であり、被害の防止・救済についての実効性に欠けているということが最大の原因である。

まず、割賦販売法は、@過剰与信防止の規定(同法38条)はあるものの、顧客の支払能力を超える与信をしてはならないという抽象的な規定にとどまり、違反に対する法的制裁が全くない訓示規定にすぎない。また、A加盟店の違法不適正な取引への与信を防止すべき調査・管理義務については何ら規定がない。さらに、与信対象取引が無効・取消・解除等で遡及的に無効となったときでも、クレジット契約の未払金債務の支払いを拒否できる(割賦販売法30条の4)にとどまり、既払金返還を含む共同責任が定められていない。そのため、クレジット会社は提携先加盟店の不適正な販売方法を察知しても、加盟店取引を打ち切るよりも存続を図るほうが経済的に有利であるという判断に傾くという実態がある。また、B問題が多発している契約書型クレジット(個品割賦購入あっせん)の与信事業者には、登録制度、行政規制権限、契約書面交付義務及びクーリング・オフが全くないといういわば野放し状態である。その上、Cその適用対象取引については、割賦払い要件の存在により1回払いは何ら規制を受けず、被害の後追いとなる政令指定商品制が存続したままである。

次に、特定商取引法は、@被害が多発した後に規制対象に加える政令指定商品制(法2条4項)が未だに存続している上、A営業店舗を利用した展示会商法や、販売主体と勧誘業者を分離した取引形態が横行するなど、脱法的取引行為を許しているという実情がある。さらに、B勧誘行為の内容に誤認・困惑行為があるときに初めて具体的規制と契約取消権が付与される規定(法6条、法9条の2)となっているため、販売目的の隠匿行為や一方的・攻撃的勧誘行為を入り口の段階で有効に規制することができない。そして、C違法行為を繰り返し問題化すると閉鎖して逃げるというような悪質業者に対しては、実効的な被害の防止や救済策が欠落しているのである。

5 実効性ある消費者被害の防止・救済策

今日の消費者政策の基本は、消費者と事業者との間の情報や交渉力の格差を踏まえて、消費者の安全が確保され、自主的かつ合理的な選択の機会が確保されることを、「消費者の権利」として尊重することとされている(消費者基本法1条、2条)。また、事業者も、消費者の権利の尊重と言う基本理念にかんがみ、「消費者の安全及び消費者との取引における公正を確保すること」が責務とされている(同法5条)。

しかして、訪問販売、電話勧誘販売、通信販売等、特定商取引法においては、その取引実態が、消費者の正確な情報と主体的な選択行動が制約されてしまうことによって被害が発生しやすいという構造的な危険性があることに鑑み、取引における消費者の安全と公正を確保できるだけの実効性のある規制が不可欠である。

また、割賦販売法が規定対象とするクレジット契約は、商品販売活動と代金回収業務とが分離することにより、不適正な販売行為を助長し過剰与信が招きやすい危険性を有する取引システムである。したがって、このようなクレジット契約システムを提供する与信事業者に対しては、不適正与信及び過剰与信の防止並びに救済に関して、実効性のある規制がなされなければならない。

そして、ここにいう実効性ある法規制とは、行政機関が事業者を指導監督するといった旧来型の規制手法にとどまらず、取引における事業者の行動規範を明確なルールとして定め、これに違反したときは消費者に契約の解消や損害賠償請求権等の権利を付与し、違法行為のやり得を許さないという法制度を意味するものである。

6 割賦販売法・特定商取引法の抜本的改正

  

現在、国は、経済産業省産業構造審議会割賦販売分科会基本問題小委員会及び同消費経済部会特定商取引小委員会において、割賦販売法と特定商取引法の改正を検討中である。

そこで、当連合会は、国に対し、両方について、以下の事項を含む抜本的法改正を求めるものである。


    割賦販売法

    1. 具体的基準を伴う過剰与信規制を定め、違反に対し実効性ある民事責任及び行政処分に関する法規制を設けること、
    2. 提携先販売業者の販売契約が無効・取消・解除等により遡及的に消滅した場合について、クレジット会社に対して未払金の支払拒絶を主張しうるにとどまらず、このクレジット会社に対する抗弁対抗の効果を、既払金の返還請求義務の発生までに拡大し、クレジット会社が販売業者と連帯して無過失共同責任を負うものとすること、
    3. 契約書型クレジット(個品割賦購入あっせん)のクレジット事業者について、登録制を設け、クレジット契約書面の交付義務及びクレジット契約に対するクーリングオフ制度を規定し、違反したクレジット事業者に対する行政処分権限を規定すること、
    4. 割賦払い要件を撤廃して1回払いや2回払いのクレジット契約をその適用対象とし、政令指定商品制を廃止することにより、原則としてすべてのクレジット取引を規制対象とすること。

    特定商取引法

    1. 政令指定商品制を廃止し、販売業者等の定義規定を見直すなど、脱法的な手口を許さないよう適用対象を整備すること、
    2. 不招請勧誘の禁止、契約取消権の範囲の拡充、消費者団体訴訟制度の適用対象の拡大、犯罪収益吐き出し制度の適用対象の拡大など、被害の防止・救済に実効性のある規定を設けること。

7 おわりに

当連合会は、以上のような法制度の改正を求めるとともに、今後とも、悪質商法による消費者被害の防止・救済に向けて取り組む所存である。


以 上




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