中部弁護士会連合会

中弁連からのお知らせ

弁護士による依頼者密告(ゲートキーパー)制度の
立法化に反対する決議

1 はじめに−皆さんは、こんな弁護士に安心して相談できますか。

皆さんは、弁護士に相談したことがいつの間にか警察に伝わるかもしれないと思ったら弁護士に安心して相談できますか。弁護士が「私たちの使命は、基本的人権の擁護と社会正義の実現です。安心して相談して下さい。」と大声で叫んでも、皆さんは相談の秘密が守られないと思ったら、とても弁護士に相談する気にはなれないでしょう。

弁護士が依頼者に信頼される源泉は、自分の話した秘密が誰にもどこにも伝わらないという安心感だと思います。その安心感を確かなものにするために弁護士には「守秘義務」が課されています。

弁護士は、相談者や依頼者から「すべての事情」を聞き、総合的に判断したうえで法令に従った適切なアドバイスを初めてすることができます。

もし、皆さんの弁護士に対する安心感を奪われてしまったら、皆さんは、弁護士に相談をすることをやめたり、あるいは、大事なことを弁護士に隠したまま相談を行うことになりかねません。そして、弁護士から適切なアドバイスを得られないままの判断で重大な事態に陥ってしまう、あるいは、適切なアドバイスを得られないために違法行為を招いてしまう危険性があります。これでは、何のための弁護士かと言いたくなります。

2 皆さんの弁護士に対する安心感を奪おうとする立法の動きがあります。

政府の国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部は、本年5月、「犯罪収益流通防止法案(仮称)」の概要を決めました。

そこでは、違法な金融取引あるいはその疑いがある取引の通報をしなければならない事業者に、弁護士も加えるとしました。その「疑い」も、どのような場合に「疑いがない」と言えるのか明らかではありません。この法案が実現したら、弁護士は、結局は疑いがないと確信できない限り、皆さんからの相談内容を歯止めなく警察に密告せざるを得ないということにもなりかねません。

仮に「密告の範囲は、弁護士の守秘義務の範囲外の事項に限定しますから心配はいりません。」と政府から説明があっても、何が範囲の内外なのかはっきりしません。何よりも皆さんの弁護士に対する安心感は、弁護士から密告されてしまう危険性があるというだけで根本から揺らいでしまうでしょう。

弁護士に相談したら、いつの間にか自分の銀行口座が無用に警察に知られ、預金が凍結され、倒産に追い込まれてしまうかもしれません。今回の法案は、そんな危険性を含んでいるのです。

3 テロ資金やマネーロンダリング資金の対策を弁護士による依頼者密告制度の立法化によって解決しようとするのは間違っています。

テロ行為に対して非常に厳しい姿勢を取り続けているアメリカでさえ、このような弁護士による依頼者密告制度は立法化の目処すら立っていません。

 私たち弁護士・弁護士会は、テロ資金やマネーロンダリング資金の対策も平和な社会を築くために重要な問題だと考えています。しかし、その問題を皆さんの弁護士に対する安心を奪う法律によって解決しようとするのは間違っています。

 弁護士会は、弁護士がテロ資金やマネーロンダリングに関与させられることがないように、弁護士に継続的な研修を実施し、また、違法行為に加担した弁護士に対しては弁護士資格を剥奪するなどの厳しい処分を含め懲戒制度をもって臨みます。

4 私たちは反対します。

 私たち中部弁護士会連合会は、皆さんの弁護士に対する安心感を奪い弁護士への相談や依頼を躊躇させ、あるいは、皆さんの弁護士に対する信頼を根底から揺るがすような依頼者密告制度の立法に強く反対し、これを断固として阻止することを決議します。


 以上、決議する。 



2006(平成18)年10月20日
中部弁護士会連合会



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