中部弁護士会連合会

中弁連からのお知らせ

行政対象暴力排除に関する決議・提案理由

1 実態

近年、暴力団・社会活動標榜団体といった反社会的勢力が自治体等の行政機関を資金源獲得の標的として、公共工事の入札・契約業者選定・許認可、各種給付・貸付助成金等にからんで、行政機関に圧力を加え、あるいは機関誌の購読や物品の購入を強要する等の不当要求行為を繰り返しており、その実態はマスコミ等の報道によって次第に明らかになってきている。

当連合会は、この行政対象暴力の実態調査のため、平成15年12月初旬、愛知県・三重県・岐阜県を中心として、富山県・石川県・福井県の北陸3県を含めた中部6県内の国の機関、県庁、市役所、町村役場に対して、計6000通を超えるアンケートを発送し、平成16年1月中旬にその大部分の回答を得た。

回答を受けた行政庁の区分は、国の機関109、県の機関465、市の機関2277、町の機関1385、村の機関185、区の機関98であった。

その部門別の区分は、総務人事部門1489、公共事業部門1669、環境部門351、福祉部門652、不動産担当部門200であり、アンケートの内、暴力団等反社会勢力から違法な行為や不当な圧力が加えられたとの被害回答が34パーセントに達していた。

また、平成17年10月から12月の間、愛知県弁護士会が、愛知県内の一部の市にアンケートを取ったが、この300通ほどのアンケートでは、暴力団等反社会勢力から違法な行為や不当な圧力が加えられたとの被害回答が60パーセントに及んでいた。

2 行政対象暴力の行為者

そして、前記当連合会のアンケートでは、不当要求行為の行為者の属性については、政治運動標榜との回答が711件、社会運動標榜との回答が723件に達し、これに対して暴力団関係企業96件、暴力団87件と政治運動標榜・社会運動標榜による被害の深刻さがアンケート上現れた。

3 不当要求行為の内容

前記中部弁護士会連合会のアンケートでは、不当要求行為の態様の1位が機関誌購読730件、2位が物品の購入546件、3位が寄付金賛助金の要求309件という結果であった。

いずれも、エセ右翼行為・エセ同和行為による不当要求行為が典型的であった。

他方、個別の事例は少なかったが、公共工事の入札指名、下請けに関する便宜供与99件、公共工事に関する情報提供25件、公共工事の受注業者への行政指導105件と、公共工事について、政治運動標榜・社会運動標榜団体が不当な圧力を行政に加えていることが明らかになった。

この部門について、被害を蒙るという点では社会的に大きな問題であると考える。

ところが、行政対象暴力による深刻な被害の実態が存するにもかかわらず、近年までこのような被害の実態は、ほとんど外部に知られることはなかった。隠蔽体質が行政機関に存在すると言っても過言ではない。

従来の行政対象暴力に対する行政庁の対応については、行政庁自体に行政対象暴力に対し、毅然たる対応をすべきことが行政の国民・住民に対する責任であることを忘却しているものとの批判がなされて当然である。

4 目的と対策

    愛知県弁護士会は、愛知県暴力追放県民会議、愛知県警察本部と共同して平成14年以降、各自治体に責任者講習を毎年10回以上行っており、岐阜県においては、弁護士有志の協力の下、平成7年に機関誌不当購読要求一斉拒否の通知を全国に先駆けてなした。福井県においては、平成12年以降、県警・暴力追放センター・弁護士有志の三者連携の下、県内市町村について機関誌不当購読要求一斉拒否の通知をなす等、精力的に行動し、三重県についても、県警・暴力追放センター・弁護士有志三者の連携の下、市町村会に働きかけ、本年3月県内過半の市町村について、機関誌等の一斉購読拒否をした。

    このように中部地区は各県において全国に先駆け、先進的な取り組みを行ってきている。

    各地において、警察・弁護士会の協力の下、不当要求行為者対策として、対策要綱の制定が進んできている。

    ただ残念ながら、これらが全県的に整備されていない地域もいまだ存在している。また、不当要求行為者対策要綱が設けられたとしても、平成17年度の暴力追放愛知県民会議責任者講習の際に実施された、愛知県弁護士会民事介入暴力対策特別委員会によるアンケート調査によれば、実効性ある対応がなされなかった結果、職員に対する脅迫暴行等の被害が継続しているという事実が判明している。

    さらには、岐阜県における暴力団組長による障害者等級認定に関しての担当職員への脅迫等の事例が報告されているほか、公共事業に関しては、近時、関西地方の大都市が特定の団体に対して市有地を有料駐車場として、長年管理を委託し、便宜を与えていたという事件が発覚している。

    このように、不当要求行為に対して、十分かつ実効性ある対策がいまだなされていないというのが実情である。

    その原因としては、前述のように行政機関の隠蔽体質と、職員の自覚の欠如と、不当要求行為に対する対抗手段としての職員の経験と知識の不足等が挙げられる。

    また、行政において、街頭宣伝による業務の妨害、職員に対する威迫行為等についても、仮処分等の法的手続きによる解決を回避してきた嫌いがあり、警察への通報の遅れにより、被害が拡大した例も存する。

    不当要求行為対策は、行政において緊急かつ積極的に取り組むべき課題である。

    弁護士会が行政対象暴力排除に取り組む目的は、暴力脅迫等不当な要求行為が行政に対してなされることを排除し、特定利害関係人のための行政から脱却し、行政が真の住民本位に立ち返り、公正で透明な行政を目指し、それを通じて市民の利益が公正に確保されることにある。

    この行政対象暴力を排除するためには、窓口等における不当要求行為対策を行うことに止まらず、職員自体・組織自体が、自立的に行動するためにさらに行政全体を貫くコンプライアンス対策が必要であると考えられる。

    そのためにも、不当要求行為対策として常設の部署を設け組織的対応をなすとともに、職員の倫理の向上をめざし研修をなすこと等が必要である。

    すなわち、コンプライアンス実現のための組織的対応こそが、不当要求行為対策として、最も有効な方策であるものと考える。

    そこで、具体的排除対策として、

    地方公共団体・国の機関においては、


      不当要求行為対策要綱の制定
      不当要求行為に対するマニュアルの作成、職員に対する研修
      不当要求行為に対する対応方法について、より実効性を高めるために県警・暴追センター・弁護士会との連携のもと不当要求行為対策協議会の設置をなすことが必要であるとともに、不当要求行為がなされた場合、地方公共団体・国は、
      不当要求行為に対する、速やかな警察への通報ないし被害届
      職員に対する書籍等の購読強要についての組織的取り組みをなす等、不当要求行為を放置することなく、場合によっては裁判手続きによる解決も視野に入れることが必要である。

    このような、体制づくり・具体的取り組みをなすために、当連合会は本決議をなす次第である。

以 上




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