中部弁護士会連合会

中弁連からのお知らせ

司法支援センターに関する決議・提案理由

  1. 2004年(平成16年)5月26日、日本司法支援センター(以下「司法支援センター」という。)の設立を中核とする総合法律支援法が成立した。

    同法は、内外の社会経済情勢の変化にともない、法による紛争の解決が一層重要になることにかんがみ、裁判その他の法による紛争の解決のための制度の利用をより容易にするとともに、弁護士等及び隣接法律専門職者のサービスをより身近に受けられるようにするための総合的な支援(総合法律支援)の実施及び体制の整備に関する定めをし、もって、より自由かつ公正な社会の形成に資することを目的とする(第1条)。

    そして、基本理念として、総合法律支援の実施及び体制の整備は、民事・刑事を問わず、あまねく全国において、法による紛争の解決に必要な情報やサービスの提供が受けられる社会を実現することを目指して行なわれるものとする(第2条)。

    ここに、司法支援センターが司法制度改革審議会意見書にいう「公正・中立な機関」として設置されることになり、総合法律支援事業の中核として位置付けられたものである。

    われわれ弁護士及び弁護士会は、市民が「いつでも、どこでも、誰でも、良質な法的サービスを受けられる社会」の実現をめざして、これまでも積極的に諸活動に取り組み、かねてより国の責務を指摘してきたところであるが、同法の成立により、この点が実現される見通しが立ったことは意義深いものと評価することができる。

    殊に、被疑者段階の国選弁護制度が初めて制度化され国の責務として実施されることになったこと、民事法律扶助事業についての国の責務が拡充され、地方公共団体の責務も定められたことは高く評価することができる。

  2. 総合法律支援の中核となるのは、司法支援センターである。

    司法支援センターは、総合法律支援に関する事業を迅速かつ適切に行なうことを目的として(第13条)、独立行政法人に準じた法人として設立され(第15条)、主たる事務所を東京都に置き、地域の実情・業務の効率性その他の事情を勘案して必要な地に従たる事務所を置くことができる(第16条)。

    現在の計画では、2006年(平成18年)5月中に、地方事務所(支部や過疎地事務所)を含めて司法支援センターが設立され、同年10月中には事業を開始することとされている。

    法務省には、司法支援センターの業務の実績に関する評価に関する事務をつかさどる評価委員会が設置される(第19条)。評価委員会の委員には、少なくとも最高裁判所の推薦する裁判官1人以上が含まれる(第19条3項)。

    そして、司法支援センターには、役員として、支援センターを代表しその業務を総理する理事長のほか、理事3人以内、非常勤理事0または1人、監事2人を置く(第22〜23条)。理事長と監事は、最高裁判所の意見を聴いたうえで法務大臣が任命し、理事は、理事長が任命し、任命したときは法務大臣に届け出る(第20条、第23条、第24条)。

    また、司法支援センターには、その業務の運営に関し、とくに弁護士等及び隣接法律専門職者の職務の特性に配慮して判断すべき事項について審議させるための審査委員会が設置される(第29条)。審査委員会の委員は、最高裁判所の推薦する裁判官1人、検事総長の推薦する検察官1人、日弁連会長の推薦する弁護士2人、優れた識見を有する者5人の計9人で構成され、理事長が任命する(第29条)。理事長は、契約弁護士等の法律事務の取扱いについて苦情があった場合の措置その他の当該契約に基づき契約弁護士等に対してとる措置に関する事項、法律事務取扱規程の作成及び変更に関する事項について決定しようとするときは、審査委員会の議決を経る(第29条8項)。

    しかし、弁護士及び弁護士会の関与については、法律上、日弁連の意見を聴かなければならないとは定められず、わずか第32条6項に「業務の運営に当たり、……意見の開陳その他必要な協力を求めることができる。」と定められているだけである。また、法律上、日弁連会長の推薦する弁護士は、評価委員会委員にも予定されておらず、理事にも監事にも予定されておらず、ただ、審査委員会の委員2人を推薦することに限られている。極めて問題である。国会審議では、日弁連の意見を求める運用がなされると答弁されたが、極めて不十分である。

    今後の制度設計の中で、最高裁判所の意見を聴くことが必要的とされているのと同程度に日弁連の意見を聴くことを必要的とする方向での関与のルールが作られなければならない。また、評価委員会の委員には、最高裁判所の推薦する裁判官1人以上が選任されるのであるから、それと同じく、日弁連会長の推薦する弁護士1人以上が必ず選任されるようにしなければならない。

    そもそも、これだけの規模の事業を実施するというのに、理事長1人、理事3人以内、非常勤理事0または1人という少人数で運営していこうとすること自体が大きな問題であり、また、合議制の理事会も設置されないというのは、理事長の専断を容認することにもなりかねず、大きな問題である。結局は、主務官庁事務局である法務省の主導で進められていくのではないかと危惧されるのである。役員の構成と組織は、これらの問題を解決するべく、必ず政令で整備されなければならない。

    また、法律上、各地裁本庁に対応して必ず地方事務所(支部)を置くことにはなっておらず、支部以外に司法過疎地に事務所を設けるのかについても定められていない。支部長・副支部長の任命とその権限、スタッフ弁護士の任命とその権限についても、何も定められていない。これらについても、制度設計において具体的に定められるべきであり、弁護士会の推薦等を必要とするという形でのルールが是非とも作られるべきである。

  3. 司法支援センターの行なう業務としては、本来業務としての5つの業務と、それ以外の受託業務(自主業務)が定められている。

    本来業務は、国、地方公共団体、弁護士会、日弁連、隣接専門職団体、弁護士、弁護士法人、隣接専門職業者、裁判外における法による紛争の解決を行なう者、犯罪被害者等の援助を行なう団体その他の者、高齢者または障害者の援助を行なう団体その他の関係する者との連携・協力をし、その確保・強化を図りつつ(第7条、第30条1項6号)、行なわれるものである。

    本来業務の第1は、裁判その他の法による紛争の解決のための制度の有効な利用に資する情報及び資料、弁護士等及び隣接法律専門職者の業務並びに弁護士会等及び隣接法律専門職団体の活動に関する情報及び資料を収集して整理し、一般の利用に供し、または個別の依頼に応じて提供する業務である(第3条、第30条1項1号)。市民にとってのアクセスポイント(窓口業務)の充実強化である。

    本来業務の第2は、民事裁判等の手続において自己の権利を実現するための準備及び追行に必要な費用を支払う資力がない国民等またはその支払いにより生活に著しい支障を生ずる国民等を援助する民事法律扶助の事業である(第4条、第30条1項2号)。

    本来業務の第3は、国の委託に基づく国選弁護人の選任に関する業務である(第5条、第30条1項3号)。

    本来業務の第4は、弁護士等または隣接法律専門職者がその地域にいないことその他の事情によりこれらの者に対して法律事務の取扱いを依頼することに困難がある地域(司法過疎地域)において、その依頼に応じ、相当の対価を得て、適当な契約弁護士等に法律事務を取り扱わせる業務である(第30条1項4号)。

    本来業務の第5は、犯罪被害者等の刑事手続への適切な関与及び被害者等が受けた損害・苦痛の回復・軽減を図るための制度その他被害者等の援助に関する制度の利用に資する等の情報及び資料を収集して整理し、一般の利用に供し、または個別の依頼に応じて提供する業務である(第6条、第30条1項5号)。

    それ以外の受託業務(自主業務)とは、上記の本来業務の遂行に支障のない範囲内で、国・地方公共団体・公益法人等の委託を受けて行なう犯罪被害者等の援助その他に関する業務である(第30条2項)。

    司法支援センターが、これらの5つの本来業務を行なっていくことは、市民に対する良質の法的サービスを行なおうとするものとして有意義なものであるが、そのためには、実質的にも、これらの業務がより幅広くかつ豊かなものに充実させられなければならない。たとえば、民事法律扶助は、対象者・対象事件を更に拡大していく必要があり、犯罪被害者支援業務には援助活動そのものをも含めるべきである。司法過疎地支援業務についても、弁護士会が取り組んでいる法律相談センターやひまわり基金法律事務所と連携・協力しながら、全体として、市民へのサービスの充実強化がはかられなければならない。

    司法支援センターが、これらの本来業務のほかに、受託業務(自主業務)を行なっていくことも、有意義なものである。これまで法律扶助協会の自主事業としてなされてきた、被疑者弁護人扶助事業、少年附添人扶助事業、犯罪被害者援助事業、少額消費者扶助事業などの業務は、本来業務に組み入れられるべきものであるが、それが困難ならば、条件に応じてできる限り、受託事業(自主事業)として、司法支援センターに引き継がれるべきである。

    そして、これらの各種業務の充実・発展のためには、総合法律支援の実施等に関する施策を総合的に策定し実施すべき国の責務(第8条)、その地域における総合法律支援の実施等に関し必要な措置を講ずべき地方公共団体の責務(第9条)が具体化され、確実に果たされていかなければならない。何よりも、必要な法制上または財政上の措置その他の措置(第11条)、地域における必要な措置(第9条)が手厚く講じられなければならない。自主事業についても、十分な財政措置が講じられなければならないことは言うまでもない。

    そして、絶えず、これらを含めての事業の見直しと点検が行なわれていかなければならない。言うまでもなく、縮小・廃止の方向ではなく、基本理念にそった充実・拡大の方向での見直しと点検である。

  4. ところで、司法支援センターは、主務大臣である法務大臣の強い監督のもとに設置され、運営される。すなわち、評価委員会の設置(第19条)、設立委員の任命(第21条)、理事長・監事の任命・解任(第20条、第24条、第26条)、業務方法書の認可(第34条)、法律事務取扱規程の認可(第35条)、国選弁護人契約約款の認可(第36条)、中期目標の設定(第40条)、中期計画の認可(第41条)、中期目標の期間の終了時の検討(第42条)、などである。

    そのうえ、これらの場合には、最高裁判所の意見を聴くことなどが必要的とされているが(第19条3項、第20条2項、第21条1項、第24条3項、第26条4項、第34条3項、第35条3項、第36条4項、第40条3項、第41条3項、第42条3項)、日弁連の意見については、運営に当たり意見を聴くことができる(第32条6項)とされているだけである。

    そこで問題となるのは、司法支援センターとスタッフ弁護士を含む契約弁護士の個別の訴訟活動及び弁護活動との関係である。

    本来、弁護士の訴訟活動及び弁護活動、とりわけ、警察・検察という権力と対峙する刑事弁護活動は、自由と独立を旨とするものであり、「効率」でもって評価されてはならないものである。このことは、司法支援センターのスタッフ弁護士を含む契約弁護士となった場合においてもいささかも変わるところはない。否、むしろ、契約という拘束が働くうえに、「業務運営の効率化に関する事項」が中期目標に掲げられ(第40条2項3号)、「業務運営の効率化に関する目標を達成するためとるべき措置」が中期計画事項に掲げられ(第41条2項3号)、中期目標期間の終了時において評価・検討の対象とされる(第19条2項、第42条)のであるから、なおさらに、弁護士の職務における自由と独立が確保・保障され、きめ細かい配慮がなされなければならない。とくに、法務省に設置される評価委員会においては、業務運営の効率化に関する事項についての評価がなされるため、個別の訴訟活動や弁護活動について、「効率化」という観点から干渉されるおそれがあるのであるから、有効な歯止めの措置が講じられなければならない。

    法第12条には職務の特性に対する配慮が定められ、法第33条には職務の独立性がうたわれ、国会審議においても、具体的な事件処理については指揮命令はしないと答弁されているが、しかし、制度的な保障は十分とは言い難い。政令、法律事務取扱規程(第35条)及び国選弁護契約約款(第36条2項)などにおいて、より具体的に職務の自主性・独立性を確保・保障する定めが置かれるべきである。また、弁護士等の職務の特性に配慮して判断すべき事項について審議させるために審査委員会がおかれたが(第29条)、審査委員会の委員の構成と人選が重要な問題になる。

  5. このように、司法支援センターの業務の第一線を担い、市民と直接接触するのは、弁護士等及び隣接法律専門職者であり、とりわけ弁護士であり、それだけに、弁護士は、司法支援センターの組織・体制づくりと運営・業務遂行の両面にわたって、大きな責任を負うものである。法第10条において、総合法律支援の実施等のために必要な支援をするよう努めるべき弁護士会の責務、必要な協力をするよう努めるべき弁護士の責務が定められているのは、この趣旨に理解することができる。

    第1に、弁護士は、司法支援センターの理事の1人として、審査委員会の委員として、また、法務省の評価委員会の委員として、運営に直接的にかかわることが期待されるものであるから、司法支援センターがその基本理念にそった業務を展開していけるように、そして、弁護士の自主性・独立性が確保・保障されていくように、最大限の努力をしていかなければならない。

    第2に、弁護士は、司法支援センターの地方支部の支部長その他の役員として、また、所属するスタッフ弁護士として、支部の運営と業務に直接的にかかわることが期待されるものであるから、司法支援センターがその基本理念にそった充実した業務を展開することができるように、あらゆる努力をしていかなければならない。

    第3に、弁護士は、スタッフ弁護士を含む契約弁護士として、上記の業務、とりわけ民事法律扶助と国選弁護の第一線で中心となって活動していくものであるから、司法支援センターの業務の充実を図るために、できるだけ多くの弁護士が契約弁護士となって関与していくことが必要である。そして、個別の業務にあっては、社会生活上の医師、ひいては「法の支配」を担うものとしての業務の遂行を心掛けていかなければならない。

    第4に、それ故に、単位弁護士会においては、地方支部の役員・契約弁護士の確保、とくに、支部長と、発足時には地方支部に少なくとも1名は必要と見込まれているスタッフ弁護士につき、適任者を確保しなければならない。殊に、被疑者国選弁護を実のあるものとするための契約弁護士とりわけスタッフ弁護士の確保は重要である。スタッフ弁護士を中心とする契約弁護士の養成も、非常に大切な課題である。

    第5に、そして、単位弁護士会においては、今後、地方支部の設立及び運営の全般について積極的に関与していくことが必要である。支部事務所の選定と確保、とくに司法過疎地事務所の選定と確保、国選弁護人確保のための態勢の確保、国選弁護人推薦等についての弁護士会との連携態勢の確保、地方公共団体との協議などが、とりわけ重要である。

  6. 以上述べてきたように、司法支援センターは、その基本理念は非常に意義のあるものであるが、制度の具体化、つまり、具体的な組織・体制や運営・業務方法は、まさに、これからの課題である。それ故に、今後の制度化作業の中で、補充すべきものは補充して、充実した中身を作り上げるとともに、「公正・中立な機関」としての司法支援センター、その基本理念を真に実現する司法支援センターを築いて行くことが求められている。

    そこで、当連合会は、司法支援センターの制度設計の衝に当たる法務省に対して、上述したような諸点に配慮した制度設計をなされるように求め、また、政府に対して、法第8条に定められた国の責務を果たすべく、法第11条に定められた法制上及び財政上の措置その他の措置を積極的に講じられるように求め、かつ、地方公共団体に対して、法第9条に定められた地域における必要な措置を講ずべき責務を果たされるように求めるものである。

    そして、われわれ弁護士及び弁護士会は、法第10条に定められた責務を自覚し、司法支援センターの基本理念が真に生かされる組織と体制及びその運営と業務の方法が定められるよう叡智を結集し、そのための制度作りに主体的・積極的に参加して全力を傾注していく決意である。先般、司法支援センター中部ブロック協議会を設置したところであるが、今後、同協議会を中心に、中部六県における司法支援センター地方支部作りに精力を注いでいく決意である。

    よって、当連合会は、司法支援センターを中核とする総合法律支援事業が、「日本国憲法における個人の尊厳と国民主権の理念に基づく司法制度の実現」という司法改革の基本理念を支える柱の一つとして、豊かに発展していくことを期待し、これを求めて、以上のとおり決議するものである。

以 上




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