中部弁護士会連合会

中弁連からのお知らせ

取調べの可視化を求める決議

日本国憲法及び刑事訴訟法は、被疑者・被告人に黙秘権を保障し、自白強要を禁止している。しかし、現実にはこれまで、捜査機関の密室での取調べにおいて、暴力・偽計・利益誘導等による自白の強要が多く行われてきた。

しかも、わが国の刑事裁判は、捜査段階で作成された自白調書に強く依存しているため、密室での取調べにより作成された虚偽の自白によって、冤罪事件が少なからず生み出されてきた。

また、公判において自白の任意性・信用性が争われる時、取調べ状況が問題になるが、法廷で取調べ担当官と被告人とがそれぞれ証言・供述で取調べ状況を再現するという方法によらざるを得ない。法廷での取調べ状況の再現は往々にして水掛け論に終わり、自白の任意性・信用性の判断は極めて困難であるばかりか、裁判の長期化を招いてきた。

かかる不当な取調べを根絶し、誤判による冤罪を防ぐためには、取調べの全過程を可視化(録画・録音)し、取調べ状況を事後的に客観的証拠によって検証できるようにすることが不可欠である。記録媒体の進歩により、取調べの可視化は捜査機関にとって、財政的にも労力的にも過大な負担を強いるものではなくなっており、可視化を導入することは十分可能な状態にある。すでに、諸外国においては、被疑者の取調べの可視化が広く実施されるようになっており、取調べの可視化は今や世界的潮流である。


ところで、今般裁判員法が成立し、5年以内に裁判員制度が実施されることになったが、この裁判員制度においては、取調べの可視化を導入することがとりわけ重要である。すなわち、市民が参加する裁判員制度のもとでは、迅速かつ一般市民にとって分かりやすい審理が求められるため、できるだけ明瞭な証拠を提出することが必要であり、これまでのように自白の任意性・信用性をめぐって長時間証人尋問を繰り返すということは不可能である。裁判員制度にとって取調べの可視化はまさに必要不可欠である。


また、「裁判の迅速化に関する法律」が2003年(平成15年)7月16日より施行されたが、被疑者・被告人の権利を保障しつつ、迅速かつ充実した審理を行うという同法の目的を達するためにも、取調べの可視化が必要である。


現在、法曹三者間において、裁判員制度の下における刑事手続の在り方や刑事裁判の充実・迅速化を図るための課題等について検討されているが、その中でも準備期間の必要性を考慮するならば取調べの可視化とその具体的方策を早期に取り纏められなければならない。

よってここに、当連合会は、


全身柄事件について被疑者取調べの全過程を録音・録画する制度を確立し、遅くとも裁判員制度の実施までにこれを整備することを強く求めるとともに、その実現のため全力を挙げて取り組んでいくことをここに決議する。

以上、宣言する。

2004(平成16)年10月15日
中部弁護士会連合会



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