中部弁護士会連合会

中弁連からのお知らせ

よりよき法科大学院の実現に向けての決議・提案理由

    司法制度改革審議会は、2年間の審議を終えて、平成13年6月12日、司法制度に関する全般的な改革の方針と内容をまとめた「意見書」を公表した。

    そして、改革の一つ、「新たな法曹養成制度の整備」として、「司法試験という『点』のみによる選抜ではなく、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた『プロセス』としての法曹養成制度を新たに整備すべきである。その中核を成すものとして、法曹養成に特化した教育を行うプロフェッショナル・スクールである法科大学院を設けるべきである。」として、法科大学院の設置を提言した。

    これを受けて、同年11月16日、上記意見の趣旨にのっとった司法制度の改革と基盤の整備を総合的かつ集中的に推進することを目的とする司法制度改革推進法が成立し、平成14年3月19日、同法に基づく司法制度改革推進計画が閣議決定された。

    同計画は、法曹養成制度の改革につき、「司法を担う法曹に必要な資質として、豊かな人間性や感受性、幅広い教養と専門的な法律知識、柔軟な思考力、説得・交渉の能力等に加えて、社会や人間関係に対する洞察力、人権感覚、先端的法分野や外国法の知見、国際的視野と語学力、職業倫理等が広く求められることを踏まえ、法曹養成に特化した教育を行う法科大学院を中核とし、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた新たな法曹養成制度を整備することとし、そのための措置を講ずる。」とし、法科大学院については、「司法制度改革審議会意見が制度設計に関して具体的に提言しているところを踏まえ、学校教育法上の大学院としての法科大学院に関する制度を設けることとし、平成16年4月からの学生の受入れ開始が可能となるよう、所要の措置を講ずる。」とされた。

    司法制度改革審議会の意見書にある法科大学院の構想と提言の要点は、以下のとおりである。


    1) 目的

    法科大学院は、司法が21世紀の我が国社会において期待される役割を十全に果たすための人的基盤を確立することを目的とし、司法試験、司法修習と連携した基幹的な高度専門教育機関とすること。


    2) 教育理念

    法科大学院における法曹養成教育の在り方は、理論的教育と実務的教育を架橋するものとして、公平性、開放性、多様性を旨としつつ、以下の基本的理念を統合的に実現するものであること。

    1. 「法の支配」の直接の担い手であり、「国民の社会生活上の医師」としての役割を期待される法曹に共通して必要とされる専門的資質・能力の習得と、かけがえのない人生を生きる人々の喜びや悲しみに対して深く共感しうる豊かな人間性の涵養・向上を図る。
    2. 専門的な法知識を確実に習得させるとともに、それを批判的に検討し、また発展させていく創造的な思考力、あるいは、事実に即して具体的な法的問題を解決していくため必要な法的分析能力や法的議論の能力等を育成する。
    3. 先端的な法領域について基本的な理解を得させ、また、社会に生起する様々な問題に対して広い関心を持たせ、人間や社会の在り方に関する思索や実際的な見聞、体験を基礎として、法曹としての責任感や倫理観が涵養されるよう努めるとともに、実際に社会への貢献を行うための機会を提供しうるものとする。

    3) 制度設計の基本的考え方

    法科大学院の制度設計に当たっては、前記のような教育理念の実現を図るとともに、以下の点を基本とすること。

    1. 法科大学院の設置については、適正な教育水準の確保を条件として、関係者の自発的創意を基本にしつつ、全国的な適正配置となるよう配慮すること。
    2. 法科大学院における教育内容については、学部での法学教育との関係を明確にすること。
    3. 新しい社会のニーズに応える幅広くかつ高度の専門的教育を行うとともに、実務との融合をも図る教育内容とすること。
    4. 法科大学院における教育は、少なくとも実務修習を別に実施することを前提としつつ、司法試験及び司法修習との有機的な連携を図るものとすること。
    5. 以上のような教育を効果的に行い、かつ社会的責任を伴う高度専門職業人を養成するという意味からも、教員につき実務法曹や実務経験者等の適切な参加を得るなど、実務との密接な連 携を図り、さらには、実社会との交流が広く行われるよう配慮すること。
    6. 入学者選抜については、他学部・他大学の出身者や社会人等の受入れにも十分配慮し、オープンで公平なものとすること。
    7. 資力のない人や社会人、法科大学院が設置される地域以外の地域の居住者等にも法曹となる機会を実効的に保障できるよう配慮すること。
    8. 法科大学院における適正な運営の確保及びその教育水準の維持・向上を図るため、公正かつ透明な評価システムを構築するなど、必要な制度的措置を講じること。

    現在、全国の多くの国公立・私立の大学等で、法科大学院設置の準備が進められている。現に、平成14年4月に結成された「法科大学院協会(仮称)設立準備会」には、98の大学と1つの弁護士会(第二東京弁護士会)が参加している状況である。

    中部地方においても、現在、愛知県内の名古屋大学・愛知大学・愛知学院大学・名城大学・中京大学・南山大学、石川県内の金沢大学が、法科大学院設置の準備を進めているところである。

    このように、全国の多くの大学等において法科大学院設置の準備が進められていることは、司法制度改革審議会が示した「全国適正配置の原則」からして望ましいことであり、中部地方においても、現在の設置準備が進められている法科大学院の数は−少ないとは言えても−多いということはない。設置基準を充たす限り、これらの法科大学院がすべて設置認可されるべきは当然のことである。

    そもそも、法科大学院は、司法制度改革審議会の意見書で述べられているように、「21世紀の司法を支えるにふさわしい質・量ともに豊かな法曹」を養成することを目的として構想され、設置されるものである。それは、「国民が自律的存在として、多様な社会生活関係を積極的に形成・維持し発展させていくためには、司法の運営に直接携わるプロフェッショナルとしての法曹がいわば『国民の社会生活上の医師』として、各人の置かれた具体的な生活状況ないしニーズに即した法的サービスを提供することが必要であ」り、「法曹が、『法の支配』の理念を共有しながら、今まで以上に厚い層をなして社会に存在し、相互の信頼と一体感を基礎としつつ、それぞれの固有の役割に対する自覚をもって、国家社会の様々な分野で幅広く活躍することが、強く求められる。」からである。

    そうだとすれば、全国の津々浦々に住む人々に、「社会生活上の医師」たる法曹による法的サービスがあまねく行き渡り、「社会の法化」が促進され、「法の支配」が貫かれるように、地域の需要に応える、地域に密着し地域の実情に通じた法曹が数多く育っていくことが必要である。

    そして、そのためには、法科大学院は全国の(大)都市部に集中して設置されるべきではなく、全国のあらゆる地方に法科大学院が設置されるべきことは言うまでもない。まさに、「全国適正配置」が求められているのである。

    司法制度改革審議会意見書で述べられているように、法科大学院の教育理念は、理論的教育と実務的教育を架橋する法曹養成に特化した教育の実現である。

    そして、同意見書では、それとともに、@「法の支配」の直接の担い手であり、「国民の社会生活上の医師」としての役割を期待される法曹に共通して必要とされる専門的資質・能力の習得と、かけがえのない人生を生きる人々の喜びや悲しみに対して深く共感しうる豊かな人間性の涵養・向上を図ること、A専門的な法知識を確実に習得させるとともに、それを批判的に検討し、また発展させていく創造的な思考力、あるいは、事実に即して具体的な法的問題を解決していくため必要な法的分析能力や法的議論の能力等を育成すること、B先端的な法領域について基本的な理解を得させ、また、社会に生起する様々な問題に対して広い関心を持たせ、人間や社会の在り方に関する思索や実際的な見聞・体験を基礎として、法曹としての責任感や倫理観が涵養されるよう努めるとともに、実際に社会への貢献を行うための機会を提供しうるものとすることに、法科大学院の教育理念が求められている。

    ここに示されている教育理念は、言葉を換えて言えば、基本的人権の擁護と社会正義の実現という法曹の使命と法曹の倫理に立脚して、社会のあらゆる問題について法的な基準と手続でもって解決をはかり、社会に新たに生起する法的問題についても的確に対応できる法曹、裁判規範の現状や法理論の限界に安住することなく、批判的・創造的な思考と取り組みを継続していける法曹、法の形式論理や機械的運用を金科玉条とすることなく、生身の人間の人権を守り、社会的弱者に暖かいケアができる法曹が養成されなければならないことを示すものである。

    そして、こうした法曹を養成していくためには、理論的教育一辺倒ではなく、理論が実務に占める位置と役割・その限界を教え、実務の裁判規範による解決方法と考え方・その限界を教え、現在の実務的な解決方法がかかえている課題と課題克服に向かう指針と考え方を教えることが必要であり、それとともに、法曹のあり方、法曹の使命と法曹の倫理も広く深く教育されなければならない。

    それは、まさに、実務に従事し実務経験が豊富な先輩法曹、適正な権利救済や紛争解決をはかるべく考え方を鍛練してきた先輩法曹、実務的解決の問題点の課題を切実に感じ取り克服してきた先輩法曹、社会的弱者の救済をはかってきた先輩法曹が教育するのにふさわしいテーマである。そして、ここでの教育に従事する先輩法曹は、実務上のさまざまな生の問題に直面し、かけがえのない人生を生きる人々とともに救済と解決に努めてきている弁護士が最もふさわしいと言うべきである。

    法科大学院では、このような教育理念のもと、このような先輩法曹による教育が実現されなければならない。弁護士及び弁護士会は、このような理論と実務を架橋する教育の中心を担わなければならないのであって、その責任は重大である。

    法科大学院においては、従来の法学部での法学教育とは異なり、法曹養成に特化した実践的なプロフェッショナル教育が行われる。

    再び司法制度改革審議会の意見書を引用すると、「実務上生起する問題の合理的解決を念頭に置いた法理論教育を中心としつつ、実務教育の導入部分(例えば、要件事実や事実認定に関する基礎的部分)をも併せて実施することとし、体系的な理論を基調として実務との架橋を強く意識した教育を行うべきである。」とされる。そして、「このような観点から、授業内容・方法、教材の選定・作成等について、研究者教員と実務経験を有する教員(実務家教員)との共同作業等の連携協力が必要である。」と指摘されている。


    法科大学院で教育される法律基本科目群(演習)、展開・先端科目群では実務家教員の関与がとくに重要であり、とりわけ、実務基礎科目群(訴訟実務、法曹倫理、法情報調査、要件事実と事実認定の基礎、法文書作成、模擬裁判、ローヤリング、クリニック、エクスターンシップ、など。)は、実務家教員が中心となって担わなければならないことは明らかである。実務家こそが、関連科目を有機的・複合的に結び付け、理論と実務を架橋・融合した教育を行うにふさわしいのであり、そのことが理論と実務の間のフィードバックを促進し、理論の発展、実務の改革にもつながっていくことになる。

    そして、教員の数は、中央教育審議会作成の「法科大学院設置基準等について(答申)」において、最低限必要な専任教員数は12人で、専任教員1人当たりの学生の収容定員は15人以下とされ、この専任教員(必要数分)のうち、相当数、つまり「概ね2割程度以上」は実務家教員とすべき、とされている。そして、実務家教員のうち相当数は、実務のさまざまな分野で活動し、人権と正義にかかわる生の社会的紛争に直接に接している弁護士が担うべきは当然と言うべきである。

    このように、法科大学院において、教育の内容と体制の全般において、実務家教員とくに弁護士教員の占める位置、果たすべき役割には非常に大きいものがある。

    従って、弁護士及び弁護士会は、このような教育の内容と体制作りにも積極的に協力・支援をしていかなければならない。常勤・非常勤を問わず、実務家教員の確保、その派遣、そのバックアップも、協力・支援の重要な中身である。

    よって、我々、中部弁護士会連合会は、中部地方とくに愛知県内・石川県内の大学において現在準備が進められている法科大学院がよりよきものとなるよう、大学当局に一層の努力を求め、政府(とくに文部科学省)に対し、これらの準備中の法科大学院が設置基準を充たす限り設置認可されるよう、そのための予算措置を含む所要の措置が講じられるよう求め、それとともに、我々自身が、よりよき法科大学院の実現に向けて積極的に協力し支援をしていく決意であることを明確にするものである。

以 上




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