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罪に問われた人たちの社会復帰支援のために、

弁護士の積極的な協力・関与を目指す宣言

1 中部弁護士会連合会は、2015(平成27)年10月30日、罪に問われた人の社会復帰支援に向けて、司法・福祉・行刑がそれぞれの役割を果たし、連携して、連続した取り組みを強めることを求め、また、弁護士、弁護士会が社会復帰支援の取り組みや運用改善、制度改革に向けた取り組みを強めることを宣言した。

前記宣言以後、厳罰を繰り返すだけでは再犯の連鎖を必ずしも断ち切れないことへの理解は徐々に広まってきており、社会内では以下のような変化があった。

2016(平成28)年12月に、再犯の防止等の推進に関する法律(再犯防止推進法)が公布・施行され、同法に基づいて、各地方自治体で地方再犯防止推進計画が策定されるようになった。また、本年6月13日には、刑法の改正により改善更生を図ることを目的とする「拘禁刑」が創設されるなど、罪に問われた人の社会復帰支援に関係する様々な法改正がなされた。このように、立法・行政において、罪に問われた人の社会復帰支援に着目する方向の動きがみられる。

司法においても、社会内で窃盗症の治療がなされることが考慮されて執行猶予期間中の被告人に再度の執行猶予が付されたり、刑事裁判の場に福祉専門職が作成した更生支援計画書が証拠として提出・採用されたりする事例が多くみられるようになってきており、単に厳罰を科すだけではなく、社会復帰支援のことを考えた具体的な変化が出始めている。


2 ただ、その一方で、2021(令和3)年版犯罪白書によれば、2020(令和2)年においては、再犯者(刑法犯により検挙された者のうち、前に道路交通法違反を除く犯罪により検挙されたことがあり、再び検挙された者)の人数自体は減少傾向にあるものの、再犯者率(刑法犯検挙人員に占める再犯者の人員の比率)は過去最悪の49.1%となっており、罪に問われた人の社会復帰の実情が改善されているといえる状況にはなっていない。

罪を繰り返している人が抱えている問題は、時に根深く、複雑であり、どれだけ周りの人たちが手を尽くしても、また罪に問われてしまう人がいる。様々な問題を抱えた人の社会復帰支援のためには、試行錯誤をしながらも、粘り強く継続して取り組んでいくことが求められる。


3 罪に問われた人が、刑事手続きを経て社会復帰に至るまでの過程には、様々な職種・機関の関与がある。彼らが抱える深刻な問題を根本的に解決するためには、そこに関与する多職種・多機関が密に連携して支援に取り組むことが不可欠である。

その中で、刑事弁護人たる弁護士は、罪に問われた人の権利利益を純粋に追求する「味方」であり、また、刑事弁護の過程の中で社会復帰後の生活について当事者と真剣に考える機会がある。このように、弁護士には、他の職種・機関にはない唯一無二の立場があり、罪に問われた人の社会復帰支援のために果たせる役割は大きい。

ただ、弁護士が社会復帰支援の段階に積極的に協力・関与していくには、前提として、他の職種・機関との間で相互理解を深める機会が確保され、また、弁護士の活動に対するしかるべき報酬・費用が支出される仕組みがなければならない。そのような仕組みがなく、個々の努力や善意に依拠しているだけでは、弁護士による積極的な協力・関与を持続可能なものとして進めていくことはできない。

そこで、中部弁護士会連合会は、以下の通り宣言する。

  • (1)われわれ弁護士は、罪に問われた人に関わる多職種・多機関の一員として、罪に問われた人の社会復帰支援により一層積極的に協力・関与していくことを目指す。
  • (2)弁護士会は、罪に問われた人の社会復帰支援のための活動をしようとする弁護士のために、他の職種・機関との交流の機会の確保、社会復帰支援に関連する研修の充実化、報酬・費用の問題への対応について、積極的に、具体的な施策を進めていく。

以上



2022年(令和4年)10月21日

中部弁護士会連合会



提 案 理 由


第1 2015(平成27)年の宣言以降の社会の主な変化

1 再犯防止推進法の施行

2016(平成28)年12月、再犯の防止等の推進に関する法律(平成28年法律第104号)(以下、「再犯防止推進法」という)が公布・施行された。再犯防止推進法においては、国及び地方公共団体の責務を明示すると共に、対策の基本的事項を掲げ、再犯防止対策を総合的かつ計画的に推進することが定められている。

同法を踏まえて、2017(平成29)年12月、政府は再犯の防止等に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、2018(平成30)年度からの5年間に関係府省庁が取り組む「再犯防止推進計画」を閣議決定した。この再犯防止推進計画は、5つの基本方針の下、7つの重点課題について、115の具体的な再犯防止施策を盛り込んでいる。

2021(令和3)年版犯罪白書によれば、2021(令和3)年4月1日時点で、188の地方自治体(都道府県42団体及び市町村(特別区を含む)146団体)が、地方再犯防止推進計画を作成している(法務省ホームページの「地方再犯防止推進計画 リンク集」によれば、計画を策定済みの地方自治体はその後も増加しているようである)。政府や地方自治体は、再犯防止推進法に依拠しながら、出口支援(=刑務所等の矯正施設から出所した後の当事者に対する支援)の充実化を図っている。


2 地域生活定着支援センターの事業

各都道府県に所在する地域生活定着支援センターにおいては、従来から取り組んでいた出口支援に加えて、2021(令和3)年4月から、保護観察所からの依頼に基づき刑事収容施設に身体を拘束されている被疑者等を対象として、自立した生活を営むことが困難な者に対し勾留中から関わり、福祉サービス等に係るニーズの内容の確認を行うこと、福祉サービス等の利用調整を行うこと、及び釈放後の必要な援助等の入口支援(=刑務所等の矯正施設に入所する前の段階の当事者に対する支援)を継続的に行うようになっている。


3 改正刑法等の成立

本年6月13日、国会において改正刑法が成立し、懲役刑及び禁固刑を廃止し、拘禁刑として単一化するとともに、拘禁刑及び拘留に処せられた者には、改善更生を図るため必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができるものとされた。

さらに、刑法の改正とともに、更生保護法を改正し、検察官において起訴猶予処分とすることが想定される被疑者に対し、その円滑な社会復帰のために必要と認めるときは、勾留中から生活環境の調整を可能とし、かつ釈放後には起訴猶予処分がなされる前から更生緊急保護を可能とする制度が創設された。この制度は、2013(平成25)年度より一部の保護観察所で試行が開始され、その後徐々に拡大していった仕組みが、その実績を踏まえて法制化されたものである。


4 弁護士、弁護士会の取り組み

2015(平成27)年の当連合会宣言においては、弁護士、弁護士会がなすべきこととして、他の職種・機関との連携が掲げられていた。その後、各弁護士において、個別の事案を担当する中で、情状弁護活動を通じた刑事手続内での入口支援の活動がなされるようになり、各弁護士会においてもそのための情報提供や支援体制の整備なども同時になされてきた。

愛知県弁護士会では、2019(令和元)年度より、「よりそい弁護士」という新しい制度が実施されている。同会からの報告によれば、同制度を利用予定であることが判決で有利な情状として認定されたり、刑務所や更生保護施設から同制度を利用する依頼がきたりする事案が出始めているとのことである。支援実績は、2019(令和元)年度49件、2020(令和2)年度58件、2021(令和3)年度78件であり、件数は年々増加している。


5 小括

このようにしてみると、立法・行政・司法それぞれの分野において、罪に問われた人に対して社会復帰支援をすることで、再犯防止に取り組む体制が形成されつつあることは確かである。

第2 罪に問われた人の社会復帰支援に弁護士が関わる意義

罪に問われた人に対する社会の意識や対応は、年々変化してきているが、その中で、われわれ弁護士の立場において、社会復帰支援に積極的に協力・関与することには、重要な意義がある。


1 再犯の現況は改善しているとはいえないこと

2021(令和3)年版犯罪白書では、2020(令和2)年は、再犯者の人数自体は減少傾向にあるものの、再犯者率は過去最悪の49.1%であったと報告されている。社会内ではいろいろな取り組みがなされているが、その成果は統計上の数字には必ずしも表れていない。

もちろん、再犯をしてしまったからといって、社会復帰支援がうまくいっていないと一概に言えるものではないし、社会復帰に向けた過程の中で、ある程度の試行錯誤があることは織り込まないといけない部分もある。

ただ、実際の統計上の数字をみれば、再犯の状況は必ずしも改善傾向にはないということは、現実として受け止め、確認しておかねばならない。


2 罪に問われた人“側”の存在の重要性

立法や行政において、罪に問われた人への社会復帰支援のための法整備や制度作りが徐々に進んできていることは確かであるが、それが罪を犯した人の社会復帰支援に真に資するものであるか、実際の運用に問題点はないかという点は、きちんと監視されなければならないことである。立法や行政が主導する取り組みは、その立場上、治安維持という側面が強くなる可能性がある。

そのような観点でみると、現在の法や制度は、全く問題がないものとはいえない。

  • (1)新設された「拘禁刑」について

    改正刑法第12条第3項は、「拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる」と規定しているが、一方で、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下、「処遇法」という)では、作業拒否や指導拒否をしないことが遵守事項とされていて(処遇法第74条第2項第9号)、これに違反した場合には懲罰の対象となり得る。実務上は、指導を拒否したことのみをもって懲罰が科される例は極めて少ないようであるが、このような制度があること自体が当事者にとって心理的な負担や強制力となる可能性がある。

    罪に問われた人が抱える問題は、強制するだけでは必ずしも解決ができないということが、これまでの刑事政策を省みるにあたっての出発点である。

    罪に問われた人の社会復帰支援は、当事者の意思が尊重され、当事者が主体的に自律した生活を再建できるようになることを目的とすべきである。当事者の意思が尊重された生活環境でなければ、その生活を持続させることも困難となるし、再びトラブルになる可能性も高くなる。その結果、再犯をしてしまう事態になれば、改正刑法が目指す再犯防止の目的も果たせず、本末転倒となる。

  • (2)改正更生保護法について

    本年6月13日に成立した改正更生保護法により、検察官が罪を犯したと認めた被疑者に対し、その円滑な社会復帰のために必要と認められるときは、その者の同意を得て、勾留中から保護観察所の長による生活環境の調整を行うことを可能とし、かつ、釈放後には、起訴猶予処分がなされていなくとも更生緊急保護が可能となった。

    この制度は、当事者の同意が要件となっており、罪に問われた人の社会復帰にとって有意義な制度となることも見込まれる。

    ただ、その一方で、手続上は検察官が主導的な役割を果たす仕組みになっているため、運用次第では、検察官が、不起訴処分にすることを背景にして、検察官の求める改善更生を当事者に事実上強いるような事態になる危険がある。

  • (3)国や政府が主導して進める社会復帰支援策は、再犯防止・治安維持の意識が強く表れることによって、罪に問われた人の社会復帰という根本的な目的・手段を誤る恐れがある。

    そのような弊害をなくすためには、社会復帰支援の段階でも、純粋に罪に問われた人の“側”に立って、その意思を正確に伝え、守られるべき権利利益がきちんと確保されるように支援する立場の存在が重要である。

    そして、弁護士であれば、そのような役割を適切に担うことができる。

3 情状弁護の質の向上につながること

  • (1) 弁護士が社会復帰支援の現場に関与すること自体が、被疑者・被告人の再犯可能性がない(低い)ことをより具体的かつ説得的にする情状事実となる。

    実際に、愛知県弁護士会では、刑事弁護人が「よりそい弁護士」制度を利用して刑事手続終了後の被疑者・被告人の社会復帰支援に関与するという事情も考慮されて、被疑者・被告人に有利な処分を得ている事例が報告されている。

  • (2) また、弁護士が社会復帰支援の現場や手続きに実際に関与し、その実態を具体的に知れば、再犯可能性に関する情状事実の主張をより具体的なものにすることが可能となる。

    被疑者・被告人の再犯可能性は、刑事手続内で重要な情状事実の一つとして考慮されるが、ただ抽象的に再犯可能性がないことを指摘するだけでは、検察官や裁判所の理解を得ることは困難であり、可能な限り具体的な主張とすることが重要である。

    弁護人が実際に社会復帰支援の過程に関与することによって、再犯可能性に関する情状の主張をより具体的にすることができるようになり、ひいては、情状弁護の質の向上につながるといえるれる。

    3 もう一つは、弁護士会が、会として罪に問われた人の社会復帰支援という課題に取り組み、実際に活動する個々の弁護士への支援となる制度や仕組みを構築していくことである。

第3 弁護士が社会復帰支援に積極的に協力・関与するために必要なこと

1 かつては、弁護士による罪に問われた人の社会復帰支援は、一部の有志の弁護士が精力的に活動しているというのが実態であると言われていた。

ただ、近年では、各弁護士会において、地域生活定着支援センターや地域の社会福祉士会と協力して制度を立ち上げたり、福祉的支援に対する費用の助成制度を設けたりすることが増えてきている。そのような社会の変化に鑑みれば、罪に問われた人の社会復帰支援は、もはや一部の有志の弁護士による活動ではなく、弁護士会として取り組むべき課題として理解され、多くの弁護士が関心をもって取り組むようになってきているといえる。

その中で、今後、この課題に取り組むわれわれ弁護士にとって、必要なこと、大切なことは何であろうか。

2 一つは、個々の弁護士が、継続して、罪に問われた人の社会復帰支援という課題に関心を持ち、その果たせる役割を自覚し、高い意識を持って問題に取り組んでいくことである。

実際の支援活動をするのは、いうまでもなく、個々の弁護士である。

社会復帰支援といっても、当事者の生活環境や抱えている問題、必要な支援の内容は千差万別である。

時には、多大な時間や労力が必要となることもあるし、苦慮して支援体制を構築したものの再びトラブルが起きてしまうということもある。社会復帰支援の過程には、簡単に解決ができない問題も多くあるが、だからこそ支援が必要なのだということを失念してはならない。

もとより、このような問題は、弁護士のみで解決できる簡単なものではない。弁護士には、他の職種・機関と共に悩み、連携し、協力し合いながら、自身の専門性や特別な立場を活かして支援を行ってくことが求めら

前述の通り、罪に問われた人の社会復帰支援の活動は時に大変な時間や労力を要し、また、他の職種・機関と専門性・専門知識を持ち寄って、連携していく必要がある。そのような活動を進めていくには、個々の弁護士の人脈や努力だけでは限界がある。

特に、弁護士が罪に問われた人の社会復帰支援に取り組むにあたって、その活動に対する報酬や費用が支払われるような仕組みを構築することが重要である。個々の弁護士の善意に頼らなければいけない活動は、決して持続させることはできない。愛知県弁護士会が取り入れている「よりそい弁護士」制度は、一つのあるべき形である。同様な仕組みが広がっていくことで、多大な負担を甘受することなく社会復帰支援に関与していくことが可能となり、ひいては、より多くの弁護士が、社会復帰支援への積極的な協力・関与をするようになっていくことが期待できるようになる。



第4 まとめ

社会内でも、われわれ弁護士の中でも、罪に問われた人の社会復帰支援に対する意識や取り組みは、少しずつ変わってきている。しかし、再犯の現況は決して改善されているわけではないし、法や制度ができたとしても、それが適切に実質の伴う形で運用されなくては意味がない。

罪に問われた人の社会復帰支援の現場では、長期的観点をもって、試行錯誤をしながらも、粘り強く継続して支援をしていくことが求められる。

そのような課題に取り組んでいくために、2015(平成27)年の宣言から7年経った今、改めて、弁護士が罪に問われた人の社会復帰支援に協力・関与する重要性を宣言することは、当連合会が継続してこの問題に取り組んでいくことを明示するものとして、また、個々の弁護士が罪に問われた人の社会復帰支援の重要性を再確認するものとして、大きな意義がある

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