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立憲主義を堅持するためにさらなる努力をする決議

日本国憲法は、個人の尊重を人間社会において最も大切な価値であると位置づけ、 憲法によって国家権力を拘束するという近代立憲主義に立脚している。恒久平和主義を謳い、詳細な人権プログラムを定め、侵すことができない永久の権利として全ての国民に基本的人権を保障して、国民主権と議会制民主主義、権力の分立を統治の基本原理とする。憲法施行後74年が経過したが、日本国憲法のもとで、日本は戦後の復興を果たし、平和を維持してきた。しかし、日本国憲法の基本原理を十全なものとするためには、不断の努力が必要である。

近年、国会を国権の最高機関と位置づけ、法の支配、三権の分立を統治の基本原則とする日本国憲法が定める近代立憲主義に反する動きがある。2015年9月に成立したいわゆる安保法制は、恒久平和主義に関し定着していた憲法解釈を閣議決定で翻した上で立法された。内閣は、安保法制成立直後の2015年10月、2017年6月、2020年7月、また今年7月になされた憲法第53条に基づく国会の臨時会の召集要求について、これを無視したり、この要求に応えての召集とは言い難い対応をしている。「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」である公文書の改ざん、隠蔽が何度も取り沙汰されるなど憲法が想定する国家運営、民主主義の根幹である国民の知る権利を蔑ろにすることが漫然と続いている。2020年に入ると、特定の検察官の定年を閣議決定で延長しまた、日本学術会議が新会員として推薦した者のうち6名の研究者の任命を拒否した。いずれも関係する法律に関する趣旨、公権的解釈を逸脱してなされたものである上、前者のいわゆる検察官定年延長問題については、「準司法官」である検察官の政治的中立性が脅かされ、憲法の基本原則である三権分立を揺るがすおそれもある。

このように立憲主義の根幹が大きく揺らいでいる中、2021年6月には憲法改正国民投票法の一部改正が国会で成立し、憲法改正の議論を進めようとする動きがある。 当連合会としては、知る権利が確保された中で広く国民的議論を経た上で憲法の定める手続に則った憲法改正を否定するものではないが、その前提としての立憲主義の根幹が大きく揺らいでいるといった状況は看過できない。これまで以上に、立憲主義を中心に日本国憲法のよって立つ基本原理の重要性を指摘し、憲法改正に関する情報を適時に国民に提供し、国民が充分な情報を得て議論ができる環境を醸成することに努める必要がある。

当連合会は、改めて憲法の最高規範性を確認し、基本的人権の尊重を中心とした憲法の基本原理を護るために立憲主義を堅持することが重要であることについて発信し続け、国民への周知に一層努力することを決議する。


以上


2021年(令和3年)10月29日

中部弁護士会連合会

提 案 理 由


第1 立憲主義を基本とする日本国憲法の基本原理

日本国憲法は、国際紛争の解決の手段としての戦争、並びに武力の行使及び威嚇を永久に放棄するという徹底した恒久平和主義を採用し(前文、第9条)、「個人の尊重」と基本的人権の保障(第11条、13条及び97条)に最大の価値を置いた。そして、国家権力の濫用から国民の自由や権利を護るために、主権者たる国民が日本国憲法を確定したことを宣言し(前文)、国権の最高機関を国会とする議会制民主主義と、権力分立を定めた(第41条、65条及び76条1項)。また、「法の支配」の貫徹のため、憲法の最高法規性(第98条1項)をうたい、それを担保するために裁判所に違憲審査権を認めた(第81条)。
 このように、日本国憲法の根本にある立憲主義は、「個人の尊重」と「法の支配」を中核とする理念であり、国民主権、恒久平和主義、基本的人権の尊重、という基本原理を支えている。


第2 立憲主義に反する動きについて

1 2015年9月に制定されたいわゆる安保法制は、それまでの歴代内閣法制局長官が、政府の立場として繰り返し断言し、現行憲法のもとで集団的自衛権行使は許されないとする、長年の論争で積み重ねられ定着していた憲法解釈を、国際情勢から必要であるとして、閣議決定で翻し、憲法改正手続を経ることなく、立法により事実上の改憲を行った。

2 憲法第53条は、「内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。」と定めるが、内閣は、この憲法第53条に基づく国会の 臨時会の召集要求について、安保法制成立後の2015年10月の要求に応じず、2017年6月の要求に対しては約3か月後に臨時会を開いたものの内閣総理大臣は冒頭に衆議院を解散し審議を行わなかった。2020年7月の要求にはその約3か月後、新しい内閣総理大臣の所信表明演説を行うとして、今年2021年7月の要求も、やはり約3か月後、新しい内閣総理大臣を指名するためであるなどとして臨時会を招集したが、いずれも憲法第53条に基づく臨時会の召集要求に応えたものとは言い難い。
 憲法には召集時期は明示されていないとしても、「召集のために必要な合理的な期間を超えない期間内に召集を行うこと」を要請しているものと解され、この一連の対応は、憲法第53条を空文化させるものであって、国会を国権の最高機関と位置づけ、三権の分立を定める統治の基本原則を踏みにじるものであると言わざるを得ない。

3 2018年3月には、民間への国有地売却に関する決裁文書14件について、国有地の貸付け及び売却に至る交渉等の経緯に関する部分に削除等の改ざんがあったこと、同年4月、存在しないとされていた自衛隊のイラク派遣の日報が存在し、その存在がほぼ1年間防衛大臣に報告されていなかったこと、同様に存在しないとされていた自衛隊の南スーダン派遣の日報も存在していたことが明らかとなった。このように公文書の改ざん、隠蔽など憲法が想定する国家運営、民主主 義の根幹である憲法上の国民の知る権利を蔑ろにすることが平然となされている。

4 2020年に入り、政府は、特定の検察官の定年を閣議決定で延長し、廃案になったもののそのことを追認するような法改正を目論んだ。また、日本学術会議が新会員として推薦した者のうち6名の研究者の任命を拒否した。当該検察官の定年延長の閣議決定は、国家公務員法の解釈変更によりなされたが、その特別法である検察庁法の規定との関係から国家公務員法の解釈の範囲を逸脱するものであった。日本学術会議の新会員任命拒否の件については、日本学術会議法が、政府が行う会員の任命は形式的任命にすぎない、政府の行為は形式的行為である、との前提で国会での審議がなされ、当該任命制の導入を是として改正された経過に明らかに反している。
 内閣が法の解釈の範囲を逸脱して恣意的な法適用を行うとすれば、それは内閣による新たな法律の制定にほかならず、国権の最高機関たる国会の地位や権能を形骸化するもので、憲法の根本原則である法の支配、三権分立に関わる問題である。
 検察官定年延長問題は、「準司法官」である検察官の政治的中立性が脅かされ、この点からも憲法の基本原則である三権分立を揺るがすおそれもある。日本学術会議の問題は、学問の自由を脅かすものでもある。

5 このように、近年、日本国憲法が定める立憲主義が蔑ろにされている。我々は、憲法で定める立憲主義の危機状態を直視し、憲法の基本原理が社会の隅々まで行き渡るように活動するとともに、これを後退させる動きに対しては警鐘を鳴らして是正に努めなければ、憲法の空洞化をもたらすことになることを自覚しなければならない。


第3 弁護士会の取り組みについて

1 日本国憲法の基本原理が日本社会に定着してきたのは、国民の不断の努力によるものであることは勿論である。しかし、それだけではなく、1949年9月1日に施行された弁護士法第1条が、基本的人権の擁護と社会正義の実現を弁護士の使命と定め、弁護士自治が保障されたことにより、在野の法曹として弁護士が権力と対峙して人権を護り人権救済に務めることができる制度が設けられ、弁護士、弁護士会が様々な分野や局面でその使命を果たし、主権者たる国民の不断の努力を支えてきたことを忘れてはならない。当連合会は、これまでどおりの人権擁護活動、憲法上問題となりうる論点の指摘などとともに、未来を担う子どもを育む主権者教育の推進も含め、立憲主義のもとでの国民主権の実質化に関わっていくことが弁護士会の役割であることを改めて確認する必要がある。

2 弁護士会は、憲法改正問題についても、その使命に即した関わりをすることが期待されている。憲法改正をめぐる議論において、その手続面も含め、立憲主義の理念が堅持され、国民主権、基本的人権の尊重、恒久平和主義という日本国憲法の基本原理が尊重されるように、弁護士会は、国民に必要な情報を提供し、国民が充分な情報を得て議論ができる環境を醸成することに努める必要がある。
 当連合会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする法律の専門家たる弁護士の団体として、改めて憲法の最高規範性を確認し、基本的人権の尊重を中心とした憲法の基本原理を護るために、立憲主義を堅持することが重要であることを発信し続け、国民への周知に一層努力することを決議するものである。

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