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退去命令拒否罪等を創設する入管法改正案に反対する理事長声明

法務大臣の私的懇談会である第7次出入国管理政策懇談会のもとに設置された「収容・送還に関する専門部会」(以下「本専門部会」という。)は、2020年6月19日、「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」(以下「本提言」という。)を公表し、2021年2月19日、政府は、本提言に沿って「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案」(以下「本法案」という。)を閣議決定し、同日、国会に提出した。

そもそも本専門部会は、2019年6月、大村入国管理センターにおいて長期収容者の餓死事件や、被収容者の長期収容に反対するハンガーストライキ等が生じたことを契機として、被収容者の処遇や長期収容問題を検討するために設置されたものである。

そして、日本の入管収容問題に対しては、2020年8月28日、国連人権理事会の恣意的拘禁に関する作業部会(以下「恣意的拘禁作業部会」という。)から、効果的な司法救済の機会が確保されておらず、収容期間の上限がない身体拘束である点で、自由権規約第9条第1項が禁じる「恣意的拘禁」に当たるとの指摘を受けており、収容は、法律にしたがったものであっても、最終的な手段と位置づけられなければならず、その必要性、相当性が充たされなければならないとされ、日本政府は、国際条約遵守の観点からも、入管収容問題の解決を迫られている。その意味で、当連合会は、入管収容問題を人権保障の観点から解決するため、入管法改正を検討すること自体については賛成である。

しかしながら、本法案は、上記の効果的な司法救済の機会の欠如、収容期間の上限の欠如といった問題を解消するものではなく、長期収容問題を、人権保障にかなった方法により解決を図るものとはいえないから強く反対する。特に、本法案のうち、@退去命令制度及び退去命令拒否罪等の罰則の創設(本法案72条6号・同52条12項、同72条8号・同55条の2第1項)、A難民申請者に対する送還停止効の例外の創設(本法案61条の2の9第4項)、B「収容に代わる監理措置」制度の導入(本法案44条の2、同52条の2)・不法就労罪(本法案70条1項9号・同10号)及び仮放免逃亡罪等の罰則の創設(本法案72条4号・同7号)については到底容認できない。以下、詳述する。





1 退去命令制度及び退去命令拒否罪等の創設について

本法案は、退去強制令書の発付を受けた者(以下「被退去強制者」という。)に対し本邦からの退去を命ずる制度(退去命令制度)や、旅券発給申請等の行為を命令する規定(本法案52条第12項)を創設するとともに、これらの命令違反に対する罰則(退去命令拒否罪等)を規定している(本法案72条6号・同52条12項、同72条8号・同55条の2第1項)。

しかしながら、被退去強制者の中には、日本で出生し、国籍国に渡航したことのない子ども、日本に配偶者等の家族がいる者や、日本での在留が長期に亘り、国籍国への帰国が困難となった者等、退去が困難な事情を抱える人々が多く存在する。

このような人々の中には、在留特別許可が認められなかったため退去強制令書等の処分の適法性を争って提訴した後、処分が覆される例もあり、2016年からの3年間のみでも国が退去強制手続関係取消請求・無効確認等訴訟において敗訴した事例が合計21件あり(本専門部会第3回会合資料5)、そのうち15件は、当連合会管内における事例(名古屋高等裁判所13件、名古屋地方裁判所2件)である。退去命令拒否罪等の創設は、このように司法の場で処分が覆される可能性が残されている者についても、自ら退去する意思がない旨を表明している等として刑事罰の対象とされる危険性があり、到底容認できない。

また、我が国は、難民条約の締約国でありながら、諸外国に比べ難民認定率が極めて低く、実際には難民に該当するにもかかわらず難民認定されないため、やむを得ず複数回申請後にようやく難民認定される事例や、訴訟により難民不認定処分が取り消される事例も相当数存在する。

以上のことから、被退去強制者が任意に退去しない背景には、様々な事情があり、本来、在留が認められるべき者もあることから、帰国が困難な事情を解消しない限り、送還の実現という効果は期待できないうえに、刑事罰による威嚇をもって出国を促すことは、法的に認められた出入国在留関係訴訟の提起という途を事実上断念させ、裁判を受ける権利を侵害する可能性がある。

さらに、退去命令拒否罪等は、被退去強制者を人道上支援する弁護士・行政書士やボランティアの市民、NGO等の支援者が共犯となる可能性を孕んだものであり、人道的活動を萎縮させるおそれが大きい。この点からも、退去命令拒否罪等の創設は容認できない。

したがって、長期収容問題を解消するために退去命令拒否罪等を設けることについては反対である。





2 難民申請者に対する送還停止効の例外の創設について

本法案は、難民認定申請手続の審査中には強制送還されない、いわゆる送還停止効(入管法61条の2の6第3項)の定めについて、3回目以降の申請者等に対し、例外を設けることとしている(本法案61条の2の9第4項)。

しかしながら、難民条約は、難民を迫害を受ける恐れのある地域に送還してはならないという「ノン・ルフールマンの原則」(難民条約33条第1項)を定めている。そして、日本においては、難民認定率が諸外国に比べて著しく低く、正当な認定がなされないことから、やむをえず難民認定申請を複数回行う者がおり、その結果難民認定がなされる事例もある。そのため、難民認定を繰り返すことが制度の濫用や誤用であると決めつけることはできない。

このような状況下において送還停止効に例外を設けることは、本来難民認定されるべき者を迫害地域に送還し、その生命・身体を脅かす危険性を高めることになり、「ノン・ルフールマンの原則」に反する結果を招来する可能性もあることから、反対である。





3 「収容に代わる監理措置」・不法就労罪及び仮放免逃亡罪等の罰則の創設について

本法案は、新たに「収容に代わる監理措置」制度を設けるとともに、被退去強制者が監理措置決定を受けた後に就労した場合の罰則(本法案70条1項10号)を設け、仮放免中の者が逃亡した場合の罰則を新たに規定している(本法案72条4号・同7号)。

「収容に代わる監理措置」は、出入国在留管理庁が適当と認める者の中から選定した監理人(本法案52条の3第1項、同44条の3第1項)に、被退去強制者等の生活状況の把握、被退去強制者の指導・監督を行わせることとし(本法案52条の3第2項、同44条の3第2項)、収容を解く制度であるが、監理人の選定、取消し、収容を解くかどうかの判断は、司法審査を経ずに出入国在留管理庁において判断されるものであり、その判断基準も明確ではない。

このような制度では、入管収容に司法審査の機会が保障されていないこと、収容期間に上限がないことといった恣意的拘禁作業部会も指摘した日本の入管収容の根本的な問題は何ら解決されない。

さらに、「収容に代わる監理措置」は、本来、被退去強制者を人道的に支援しようとする者に「監理人」として出入国在留管理庁に対する報告義務を課し、義務違反の場合、過料の制裁に処すものであり、支援者と被退去強制者との信頼関係を損なわせるものであるし、殊に弁護士が「監理人」となる場合には、守秘義務や利益相反の問題も生じうる。

また、監理措置の決定を受けた者が許可無く就労した場合の罰則が設けられているところ、長期収容が問題とされてきた被退去強制者については、退去強制手続中に監理措置決定を受けた者(本法案44条の2、同44条の5)と異なり、就労許可の規定はなく(本法案52条の2参照)、就労はすべて罰則の対象となり得る。しかし、収入もなく、社会保障も受けられず、生存さえ脅かされる危険性のある者が就労したことに刑事罰を科すことは人道に反するといわざるを得ない。

仮放免中の逃亡に関しても、逃亡防止政策はその背景にある無期限の長期収容、収容施設における不十分な医療体制等、処遇の人権問題と合わせて検討しなければ、刑罰の威嚇をもって解決することは期待できない。

したがって、新たに「収容に代わる監理措置」制度をもうけ、不法就労罪及び仮放免逃亡罪等の罰則を導入することについてはいずれも反対である。





4 むすび

中部地域には、全国的に見ても、非常に多くの外国人住民が居住し、地域社会を支える担い手として活躍している。また、中部地域の各地方自治体も、外国人住民の増加、多国籍化といった課題に向き合い、相互に人権を尊重し合いながら共生できるよう多文化共生社会の推進を図っているところであり、当連合会に所属する多くの会員が外国人の人権保障に向けた取組に参画している。

しかし、本法案は、長期収容問題を人道上の観点から解決するというよりは、外国人に対する管理強化の側面が色濃く、外国人やその家族の人権を脅かすものであるうえに、被退去強制者等を人道上支援しようする弁護士や市民の活動をも萎縮させるものであって、収容問題解決の方向性を誤ったものといわざるを得ない。

当連合会は、本法案に以上の点で反対するとともに、長期収容問題の解決にあたっては、身体拘束を最終手段と位置づけ、その必要性・相当性を厳格に審査するとともに、収容期間の上限をもうけ、収容の是非につき司法審査を導入すること、厳しすぎる難民認定制度の是正等、人権保障にかなった制度の見直しの方向性に改めるよう求めるものである。



以上





                                令和3年3月4日

中部弁護士会連合会    
    理事長  金 井   亨

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