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消費者市民社会の実現に向けて弁護士が
消費者教育に積極的に取り組むことの宣言

消費者教育は、消費者問題の発生を契機として、消費者を保護し、その自立を支援することを主な目的としてこれまで取り組まれてきた。その後、消費者によるフェアトレード商品の選択が世界の貧困や児童労働の減少に貢献することなど、消費者の選択行動を通して社会に影響を及ぼすことが重視されるとともに、消費者の主体性を重んじる傾向が強まり、主体的に社会へ参画する市民としての消費者の育成が、消費者教育の役割として期待されるようになった。

このような流れの中で、2012年(平成24年)12月、消費者教育の推進に関する法律(以下「推進法」という。)が施行された。推進法は、消費者教育の推進が国及び地方公共団体の責務であることを明示するとともに、消費者が公正かつ持続可能な社会の形成に積極的に参画する社会を「消費者市民社会」と定義し、消費者教育の目標として、被害に遭わない自立した消費者の育成にとどまらず、消費者市民社会の形成に参画し、その発展に寄与する消費者の育成を掲げた。このように、消費者市民社会の理念が導入されたことにより消費者教育の目指す方向性が示されるとともに、消費者教育は国全体の政策的課題として明確に位置付けられた。

消費者市民社会の理念に基づく消費者教育の実践は、幼児期から高齢期まで生涯を通じて、学校、地域、家庭、職域その他の様々な場においてなされるべきものである。なかでも、学校における消費者教育は、すべての児童・生徒が、等しく体系的に学ぶことができる機会であり、消費者市民としての価値観や消費生活能力を育む最も基礎的な場といえる。また、2016年(平成28年)6月に選挙権年齢が18歳以上に引き下げられたことに伴い、民法の成年年齢引下げの議論がなされる現況の下、若年者への消費者教育の重要性はますます高まっている。したがって、学校における消費者教育の充実は喫緊の課題ということができる。

しかし、推進法が施行されてから、まもなく5年を迎えるが、消費者教育の推進はまだ不十分な状況である。とりわけ消費者市民社会の実現に向けた消費者教育の推進は不十分で、消費者市民社会に対する理解が国民の間に十分浸透しているとは言い難い状況にある。2017年(平成29年)4月に消費者教育推進会議が発表した「消費者教育の推進に関する基本的な方針 中間的見直し」では、消費者教育推進の現状と課題の1つとして、消費者市民社会の形成へ寄与する消費者を育む消費者教育は意識されつつあるものの、その十分な浸透までには至っていないことが指摘されている。

弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義の実現をすることを使命としており(弁護士法第1条)、消費者教育によって、人権や環境等に配慮して主体的に行動できる消費者を育成することは、弁護士が取り組む人権問題、労働問題、環境問題等の解決にもつながるものである。また、弁護士が日々の業務を通じて得た知識と経験をもとに、これらの問題の実相を伝えることで、消費者教育の内容をより実践的で豊かなものにすることができる。さらに、教育の重要な目的の1つに主権者の育成があるところ(教育基本法第1条)、消費者市民社会の形成・発展に寄与する消費者を育てる消費者教育は、まさに主権者の育成にほかならず、司法に関与して三権の一翼を担い、法に携わる私たち弁護士は、このような主権者の育成に責任を負うべきものといえる。

このため、弁護士が消費者教育に積極的に関与することの意義は非常に大きいものということができる。

そして、弁護士による消費者教育の取組は、行政、学校及び消費者団体等と連携して行うことが不可欠であるところ、弁護士会には、弁護士がこれらの機関と連携を図るにあたってのコーディネーターとしての役割を担うことが期待される。

よって、当連合会は、今後の消費者教育において、弁護士及び弁護士会が、積極的に関与する意義とそこで果たすべき役割の大きさを自覚し、行動を起こすために、以下のとおり宣言するものである。

1 弁護士及び弁護士会は、消費者市民社会の実現に向けて、消費者教育の推進のための活動に積極的に取り組む

2 弁護士及び弁護士会は、消費者教育の重要性が増す学校教育の場において、行政、学校及び消費者団体等と連携を図りながら、消費者教育の実践に積極的に取り組む



2017年(平成29年)10月20日
中部弁護士会連合会





提 案 理 由


1 消費者市民社会の実現に向けた消費者教育の重要性

消費者教育はこれまで、消費者と事業者との間の情報の質及び量や交渉力の格差等に起因して消費者問題が発生してきたことを契機に、消費者を保護し、その自立を支援することを主な目的としてこれまで取り組まれてきた。しかし、その後、消費者の選択行動を通して社会に影響を及ぼすことが重視されるとともに、消費者の主体性を重んじる傾向が強まり、消費者市民社会という考え方が議論されるようになった。

例えば、消費者は、フェアトレードの商品を選ぶことによって、世界の貧困や児童労働の減少に貢献することができる。地産地消を心がけることによって、商品輸送の際に生じる二酸化炭素を削減し、また、地域経済の活性化に貢献することもできる。障がいのある人や被災地の人々が作った製品を買うことで、彼らを応援することもできる。ブラック企業と取引しないことで、ブラック企業を減らし、労働者の労働環境を向上させることもできる。消費者市民社会とは、消費者一人ひとりが、個人の消費生活の向上のみならず、現在及び将来世代の社会経済情勢や地球環境にまで思いをはせて生活し、自らの消費行動を通して、公正で持続可能性のある社会の形成に参画する社会である。

そして、消費者市民社会を実現するためには、消費者被害の防止と消費者の自立を目的としたこれまでの消費者教育に加えて、自らの行動を通じて主体的に社会へ参画する消費者を育むことが必要であり、そうした役割もこれからの消費者教育の役割として期待されるようになった。


2 推進法の施行とこれに基づく施策

こうした流れの中で、推進法が2012年(平成24年)12月13日に施行された。推進法は、消費者が公正かつ持続可能な社会の形成に積極的に参画する社会を「消費者市民社会」と定義する(推進法第2条第2項)。そして、消費者教育の基本理念として、消費者教育は、@主体的に消費者市民社会の形成に参画し、その発展に寄与する消費者の育成を目指すこと(推進法第3条第2項)、A修得した知識を適切な行動に結び付ける実践的な能力の育成を目指すこと(同条第1項)、B学校、地域、家庭、職域その他の様々な場の特性に応じた適切な方法により、かつ、多様な主体の連携を確保しつつ、効果的に行われるべきこと(同条第4項)、C消費生活に関する行動が現在及び将来の世代にわたって内外の社会経済情勢及び地球環境に与える影響に関する情報その他の多角的な視点に立った情報を提供することにより行われるべきこと(同条第5項)などを謳っている。推進法は、また、消費者教育の推進が国及び地方公共団体の責務であることを明示した(推進法第4条、第5条)。

この推進法の制定により、消費者市民社会の実現という消費者教育の目指す方向性が示されるとともに、消費者教育は国全体の政策的課題として明確に位置付けられた。

そして、推進法の理念の実現に向けて、2013年(平成25年)6月28日、「消費者教育の推進に関する基本的な方針」が閣議決定され、その後、多くの都道府県が消費者教育推進計画を定め、消費者教育推進地域協議会を設置するなど、これまでに消費者教育の推進のための体制整備が一定程度講じられている。


3 学校における消費者教育の重要性

推進法が目指している消費者教育の実践は、幼児期から高齢期までの各段階に応じて体系的に行われるべきである(推進法第3条第3項)とともに、学校、地域、家庭、職域その他の様々な場においてなされるべきものである(推進法第3条第4項)。

なかでも、学校における消費者教育は、すべての児童・生徒が、等しく体系的に学ぶことができる機会であり、消費者市民としての価値観や消費生活能力を育む最も基礎的な場といえる。既に現行の学習指導要領は、家庭科、社会科・公民科を中心に、消費者市民社会の形成に通じる教育を取り入れたものになっているが、次期学習指導要領においては、この傾向は維持され、更に推し進められる見込みである。

また、2016年(平成28年)6月に選挙権年齢が18歳以上に引き下げられたことに伴い、民法の成年年齢の引下げが議論されているところ、仮に成年年齢が引き下げられた場合は、未成年者取消権による救済が及ばなくなる結果、消費者被害に対する救済が不十分になってしまうことから、その対応として若年者への消費者教育を強化する必要性が高まっている。

以上のとおり、学校における消費者教育の充実は喫緊の課題といえる。


4 消費者教育推進の現状

しかし、推進法が施行されてから、まもなく5年を迎える今日にあっても、消費者教育の推進はまだ不十分な状況にある。とりわけ消費者市民社会の実現に向けた消費者教育の推進は不十分で、いまだ消費者市民社会に対する理解が国民の間に十分浸透しているとは言い難い状況にある。

2017年(平成29年)4月、消費者教育推進会議は、推進法施行後の実施状況を確認し、「消費者教育の推進に関する基本的な方針 中間的見直し」(以下「中間的見直し」という。)を発表した。その中で、消費者教育推進の現状と課題の1つとして、「消費者市民社会の形成へ寄与する消費者を育む消費者教育は意識されつつあるが、十分な浸透まではされていない」ことを指摘している。

また、中間的見直しでは、学校での消費者教育の現状について、学習指導要領においては充実が図られているものの、生活に密着した実践的な知識として身に付けるための指導方法に関しては教員の力によるところが大きく、学校による差が大きいなどとして、学校教育における課題が指摘されている。


5 弁護士及び弁護士会が消費者教育に積極的に取り組むことの意義と宣言

推進法は、多様な主体が連携して消費者教育を行うべきことを定め(推進法第3条第4項)、また、学校において実践的な消費者教育が行われるよう、その内外を問わず、消費者教育に関する知識、経験等を有する人材の活用を推進することを国及び地方公共団体に求めている(推進法第11条第3項)。そして、中間的見直しでは、今後の重点事項の1つとして、消費者教育の担い手の育成と学校教育における連携強化の必要性が挙げられ、その担い手となるべき人材として「法律の専門家としての弁護士」が例示され、こうした消費者教育の担い手は教え方や伝え方のノウハウ、専門性を身に付けることが望まれると指摘されている。

私たち弁護士は、社会に生起する諸問題に対し、基本的人権を擁護し、社会正義の実現をすることを使命として(弁護士法第1条)、日々活動しているところ、消費者教育によって、人権や環境等に配慮して主体的に行動できる消費者を育成することは、弁護士が取り組む人権問題、労働問題、環境問題等の解決にもつながるものである。

また、弁護士が日々の業務を通じて得た知識と経験をもとに、これらの問題の実相を伝えることで、消費者教育の内容をより実践的で豊かなものにすることができる。これまで消費者被害の救済のため消費者事件に取り組んできた弁護士が、被害の実態を踏まえたうえで消費者市民社会の実現について語るとき、その言葉は真に迫るものとなる。中間的見直しにおいて、消費者市民社会の概念の理解に資する教育を今後一層推進していく際には、「消費者被害の防止や消費者の自立支援教育と消費者市民社会の実現は別々のものではなく、これらが関係性を持っていることに留意し推進を図る必要がある」とし、その具体例として、「消費者トラブルに遭った際に消費生活センターに相談するという行動は、消費者個人の問題解決を目的としたものであると同時に、消費者被害の未然防止・拡大防止にもつながる消費者市民の役割でもあるということが認識されることが求められる」との指摘がなされている。この指摘は、消費者個人の具体的事件を扱う私たち弁護士が、消費者市民の育成に取り組む1つの意義を示しているといえる。

さらに、教育の重要な目的の1つは「平和で民主的な国家及び社会の形成者としての必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成」、すなわち、主権者の育成にあるところ(教育基本法第1条)、消費者市民社会の形成・発展に寄与する消費者を育てる消費者教育は、主権者の育成にほかならない。私たち弁護士は、司法に関与することにより三権の一翼を担い、法に携わるのであるから、このような主権者の育成に責任を負うべきものといえる。

このため、弁護士が消費者教育に積極的に関与することの意義は非常に大きいことは明らかである。

そして、弁護士による消費者教育の取組は、行政、学校及び消費者団体等と連携して行うことが不可欠であるところ、弁護士会には、弁護士がこれらの機関と連携を図るにあたってのコーディネーターとしての役割を担うことが期待される。

よって、当連合会は、弁護士及び弁護士会が、これからの消費者教育に果たすべき役割とその意義の大きさを自覚し、行動を起こすために、以下のとおり宣言するものである。

(1) 弁護士及び弁護士会は、消費者市民社会の実現に向けて、消費者教育の推進のための活動に積極的に取り組む

(2) 弁護士及び弁護士会は、消費者教育の重要性が増す学校教育の場において、行政、学校及び消費者団体等と連携を図りながら、消費者教育の実践に積極的に取り組む


以上

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