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権利擁護の観点から、より良い
成年後見制度の活用をめざす宣言

2000年4月に発足したわが国の成年後見制度は、精神上の障がいにより判断能力が不十分とされた高齢者や障がい者の法律行為や財産管理について、高齢者・障がい者の権利擁護のための役割を果たしている。

しかし、同制度の発足後、運用面における種々の問題点、たとえば、同制度の利用が必要と考えられる対象者の数に比し、その利用者数は極めて少なく、また、法定成年後見制度の利用においては、後見類型の利用が他の類型を圧倒し、保佐類型・補助類型の利用が低迷していることなどが指摘されてきた。 利用者数については、市町村長による申立件数が増加し、また、後見人の担い手についても、親族以外の第三者後見人が選任される割合が増加しているものの、同制度の適切な運用に欠かせない行政及び司法による公的支援は十分であるとは言いがたい状況にある。

こうした中、本年5月13日、「成年後見制度の利用の促進に関する法律」が施行された。そして、同法第3条は、基本理念として、成年後見制度の利用の促進に当たり、@成年被後見人等の尊厳にふさわしい生活が保障されるべきこと、A意思決定支援が適切に行われるとともに自発的意思が尊重されるべきこと、B財産管理だけでなく身上の保護が適切に行われること、C制度利用に係る需要を適切に把握すること、市民後見人の養成などを含めて人材を十分に確保すること等により、地域における需要に的確に対応すること、D家庭裁判所、関係行政機関、地方公共団体、民間の団体等の相互の協力・適切な役割分担の下に、成年後見制度の利用者の権利利益を保護するための必要な体制を整備することを定め、これらの理念に対応した11項目もの多岐にわたる基本方針が定められた(同法第11条)。

人は、先天的もしくは後天的に何らかの障がいを負う可能性を等しく有している。そして、人は、例外なく老い、その判断能力は低下していく。成年後見制度の運用は、現在の関係者だけの問題ではなく、将来、支援と保護を必要とする自らの問題として捉えられなければならない。

高齢者・障がい者の意思決定支援及び身上監護が適切に行われるようにするため、当連合会は、同法第 11条各号に規定された基本方針のうち、1号、7号、8号及び10号に関し、下記の4点、すなわち、


  • 法定成年後見制度のうち、保佐・補助類型の利用の促進に向けた方策につき、家庭裁判所、関係行政機関、地方公共団体等が検討を加え、こうした検討過程に弁護士及び弁護士会が関与すること
  • 地方公共団体が、地域住民の需要に的確に対応し、成年後見等の市町村長申立てを積極的に推進するとともに、弁護士及び弁護士会は、市町村長申立てにつき、相談の実施、助言などに積極的に関与すること
  • 地域における成年後見人等の人材の確保のためには、市民後見人の育成だけでなく、地方公共団体の実施する成年後見制度利用支援事業における成年後見人等に対する報酬助成について、市町村長の申立てに限る、との制約を撤廃し、報酬助成のための必要かつ十分な予算措置が講じられるべきこと
  • 成年後見人等に対する助言その他の支援の機能を強化するために、関係行政機関、地方公共団体及び監督機関である家庭裁判所において、人的体制の整備等の必要な措置を講ずること

を提言し、かかる提言の実現に向け、当連合会は、家庭裁判所、関係行政機関、地方公共団体と連携することを決意し、ここに宣言する。

       



2016(平成28)年10月21日 
中部弁護士会連合会





提 案 理 由


 1.「権利擁護」という語

福祉の分野において、「Advocacy」の訳語として「権利擁護」という言葉が使用されてきた。ここでいう「権利擁護」に厳密な定義付けはされていないものの、「権利」を「擁護」するという文字通りの意味ではなく、たとえば、何らかの事情によって自らの思いや考えを、他人ないし社会に伝えることができないもしくは困難な方の声を、他人ないし社会に伝えていく活動が「権利擁護」である、などと言われている。


 2.成年後見制度の実際の運用

2000年4月に発足したわが国の成年後見制度は、精神上の障がいにより判断能力が不十分とされた高齢者や障がい者の法律行為や財産管理について、高齢者・障がい者の権利擁護のための役割を果たしている。

しかし、同制度の発足後、運用面における種々の問題点が指摘されてきた。たとえば、@成年後見制度の必要と考えられる対象者は、推定で約569万3000人であると言われているが、これに対し、2015年末時点においても、成年後見制度の利用者は19万1335人にとどまっており、驚くほど少ない。また、A法定成年後見制度の実際の利用においては、後見類型が圧倒的な割合を占めており、保佐・補助類型の利用が少ない。特に、補助類型は、任意後見制度とともに、成年後見制度の目玉とされたが、その利用は、法定後見制度全体の約5%にとどまっており、極端に少ない。


 3.「成年後見制度の利用の促進に関する法律」の制定

こうした問題点を踏まえ、これまで、日本弁護士連合会等の関係団体より、成年後見人等の担い手の拡充、裁判所の人的・物的体制の拡張及びその予算措置や、関係行政機関による支援システムの構築といった提言がなされてきたが、本年5月13日、「成年後見制度の利用の促進に関する法律」(以下「促進法」という。)が施行された。

促進法第3条は、基本理念として、成年後見制度の利用の促進に当たり、@成年被後見人の尊厳にふさわしい生活が保障されるべきこと、A意思決定支援が適切に行われるとともに「自発的意思」が尊重されるべきこと、B財産管理だけでなく身上の保護が適切に行われるべきこと、C制度利用に係る需要を適切に把握すること、市民後見人の育成・活用を通じて人材を十分に確保すること等により、地域における需要に的確に対応すること、D家庭裁判所、関係行政機関、地方公共団体、民間の団体等の相互の協力・適切な役割分担の下に、成年後見制度の利用者の権利利益を保護するための必要な体制を整備することを定めた。

そして、上記基本理念に対応して、同法第11条において定められた計11に及ぶ基本方針の中には、「成年後見制度のうち利用が少ない保佐及び補助の制度の利用を促進するための方策について検討を加え、必要な措置を講ずること」(同条1号)、「市町村長による後見開始、保佐開始又は補助開始の審判の請求の積極的な活用その他の必要な措置を講ずること」(同7号)「地域において成年後見人等となる人材を確保するため、成年後見人等又はその候補者に対する研修の機会の確保並びに必要な情報の提供、相談の実施及び助言、成年後見人等に対する報酬の支払の助成その他の成年後見人等又はその候補者に対する支援の充実を図るために必要な措置を講ずること(同条8号)、家庭裁判所、関係行政機関及び地方公共団体は必要な人的体制を整備し、その他必要な措置を講ずることを求め、各機関は相互に緊密な連携を確保するために必要な措置を講ずること(同条10号及び11号)が含まれている。


 4.中部6県における運用

本年6月から7月にかけて、当連合会は、中部6県(愛知県、三重県、岐阜県、福井県、石川県、富山県)の市町村を対象として、@市町村長申立て(以下「首長申立て」という。)と成年後見利用支援事業の実施状況、A成年後見制度の利用促進に向けての施策・取組(支援機関の設置、市民後見人の要請)、B促進法との関わりの3点について、アンケートを実施した。

アンケート結果によると、まず、@首長申立てについては、平成17年に実施した同様のアンケート結果と比べると、事務取扱要領(要綱)の整備が進み、申立件数も大幅に増加しているものの、未実施の市町村もまだ約半数ある上、申立件数に占める保佐類型・補助類型の割合は、やはり、極めて少ない。成年後見制度利用支援事業については、成年後見人等の予算措置を講じている市町村が8割を超えているが、多くの市町村は、報酬助成を首長申立ての事案に限定している。

次に、A利用促進に向けた施策・取組(支援機関・市民後見人)についてみると、成年後見制度推進のための支援機関(サポートセンター)を設置している市町村は、約3割にとどまっている。設置していない市町村のうち約6割は、市町村の担当職員等による対応で十分であるとの回答であったが、未設置の市町村の中には、人員・財源の確保が困難であるとの回答や、設置の必要性は理解しているものの、その進め方にとまどっているとの回答もあった。他方、市民後見人については、その養成のための研修を実施した自治体は2割に達していない。

そして、B促進法の施行を受けた市町村の対応については、検討をしている市町村は1割にも満たず、また、保佐・補助類型の活用の促進を検討している市町村は皆無であった。

以上のアンケート結果は、促進法に掲げられた上記基本方針を遂行していく必要性を裏付けるものといえる。


 5.提言へ向けて

以上を踏まえ、当連合会は、促進法の掲げる11項目の基本方針のうち、これに関連する下記の4点を提言する。


(1) 保佐・補助類型の利用促進

促進法は、既存の成年後見制度をやみくもに促進しようとするものではない。

促進法に規定されている基本理念のとおり、「意思決定支援が適切に行われるとともに、成年被後見人等の自発的意思が尊重され」なければならず、その上で、財産管理及び身上の保護が適切になされなければならない。

成年後見制度は、自発的意思が最大限尊重されるべく、判断能力の段階に応じて、後見・保佐・補助の各類型を設けているのであるから、本来、保佐もしくは補助類型にふさわしい案件が、後見類型に押し込まれることがあってはならない。利用されることが少ない保佐・補助類型の利用が促進されるよう、その方策について、家庭裁判所、関係行政機関、地方公共団体等が検討を加え、こうした検討過程に対し、弁護士及び弁護士会も関与すべきである。


(2) 首長申立ての更なる拡充

成年後見制度の利用において、中部6県のアンケート結果によれば、首長申立ての件数は確実に増加している。ただ、市町村の中には、首長申立てを実施していないところもあり、事務取扱要領(要綱)は完備しているものの、これが活用されていないケースが相当数あるものと考えられる。全国的に見ると、平成27年における首長申立て件数は、全体の約16.4%(最高裁判所事務総局家庭局『成年後見関係事件の概況−平成27年1月〜12月−』)を占めており、このことは、民法上の申立権者による申立てが期待できない件数が相当存することを意味し、その重要性は増すばかりである。成年後見制度の利用が必要な案件において、市町村が申立てを躊躇するようなことがあれば、後見制度の利用促進は進まない。一層の拡充が求められる所以であるが、拡充に向けては、首長申立てにあたって市町村が直面する種々の問題に対して、弁護士及び弁護士会による相談・助言等の積極的関与が必要である。


(3) 「成年後見制度利用支援事業」と報酬助成

厚生労働省は、平成20年10月24日付「事務連絡」において、「成年後見制度利用支援事業」の補助対象は、首長申立てに限らず、本人申立て、親族申立てなどについても対象となり、申立費用のみならず、後見人等の報酬も助成の対象となるとしている。さらに、同省は、平成24年4月より、「成年後見制度利用支援事業」を市町村地域生活支援事業の必須事業に格上げしている。

しかし、先のアンケート結果によれば、「成年後見制度利用支援事業」に基づき、後見人等に対する報酬助成を実施している市町村の多くは、首長申立ての案件に限定している。

他方、第三者後見人・保佐人・補助人(以下「第三者後見人等」という。)の割合が全体の7割を超え、このうち、弁護士、司法書士、社会福祉士の三専門職の割合が6割に達し、さらに、市民後見人の養成が今後の課題とされる現在において、報酬原資の問題により、専門職等の適切な後見人等が選任されないという事態は、権利擁護の観点から見過ごすことはできない問題である。

従って、各市町村においては、後見人等に対する報酬助成につき、首長申立て案件に限るとの制約を撤廃し、報酬助成のための必要かつ十分な予算措置を講ずるべきである。あわせて、国は、市町村が「成年後見制度利用支援事業」を促進できるよう、必須事業として相応しい十分な予算措置を講ずるべきである。


(4) 成年後見人等に対する助言その他の支援などに向けた整備

成年後見制度の基本理念は、ノーマライゼーション、自己決定権の尊重、身上監護の重視であり、こうした理念の実現のために成年後見人等が選任される。毎年のように、管理継続案件が増え続ける中では、成年後見人等に対しては、家庭裁判所による監督のみならず、適切な助言、支援が必要である。しかし、家庭裁判所は人的・物的に不足をしている。成年後見制度が社会に信頼される制度となるために、裁判所の人員の増員・配置について改革をすることが必要である。また、成年後見人等に対する適切な助言・支援を行い、成年後見制度の利用を促進するためには、法務省、厚生労働省、内閣府等の関係行政機関、地方公共団体等においても、人的体制の整備をする等必要な措置を講ずるべきである。

以上

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