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集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定の撤回及び
関連法の改正等の中止を求める決議

本年7月1日、政府は「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」と題する閣議決定を行った。同閣議決定は、集団的自衛権の行使を容認するとともに、自衛隊を海外の戦闘地域に派遣することに道を開くものである。

集団的自衛権すなわち「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」の行使は、前文で平和的生存権を確認し、第9条で戦争放棄、戦力不保持、交戦権否認を定めるなど徹底した恒久平和主義を採用した日本国憲法の許容するところではないことは明白である。

政府は、これまで40年以上、憲法第9条の下において許容されている自衛権の行使は@我が国に対する急迫不正の侵害(武力攻撃)が存在すること、Aこの攻撃を排除するため、他の適当な手段がないこと、B自衛権行使の方法が必要最小限の実力行使にとどまること、の三要件に該当する場合でなければならず、集団的自衛権の行使は、上記@の要件を満たさず、日本国憲法上許されないとの解釈を堅持してきた。ところが、閣議決定は、この三要件の第一要件を変更し、我が国に対する武力行使がない場合でも「我が国と密接な関係にある他国に対する武力行使が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」には武力行使ができるとして集団的自衛権の行使に道を開いた(自衛の措置としての武力の行使の三要件)。

憲法第9条に関する確立した憲法解釈を国会での審議も経ないまま一内閣の判断で根本的に変更することは、憲法を最高法規と定め(憲法第10章)、憲法に違反する法律や政府の行為を無効とし(憲法第98条)、国務大臣や国会議員に憲法尊重擁護義務を課すことにより(憲法第99条)、政府や立法府を憲法による制約の下に置こうとした立憲主義に反するものである。

同時に、閣議決定は、いわゆる「武力行使と一体化する活動は行わない」という原則を緩和し、自衛隊が海外の戦闘地域で活動する道を開くものとなっている。政府は、これまで、憲法第9条との関係で、自衛隊が海外で行う支援活動は他国の「武力の行使と一体化」するものであってはならないとの方針を堅持し、活動の地域を「後方地域」(いわゆる周辺事態法)、「非戦闘地域」(いわゆるテロ特措法、イラク特措法)に限定してきた。しかし、閣議決定は、この原則を緩和し、他国が「現に戦闘行為を行っている現場」ではない場所での補給、輸送等の支援活動を許容するための法整備を進めるとしている。

これは、従来は戦闘地域と考えられてきた地域にも自衛隊の活動範囲を拡大するものである。現に銃弾が飛び交っている現場以外なら自衛隊が活動できるとするなら、自衛隊員を相手からの攻撃にさらし、自衛隊を戦闘に巻き込む危険性を大きく増大させると同時に、自衛隊が、他国の武力行使と一体化した憲法違反の活動に従事する危険性を高めるものである。

集団的自衛権の行使を容認し、海外で戦闘が行われている地域に自衛隊の活動を広げる本閣議決定は、憲法第9条に反し違憲である。当連合会は、集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定の撤回を求めるとともに、憲法違反の閣議決定の実施のために行われようとしている自衛隊法や周辺事態法等の安全保障関係法令の改悪に強く反対するものである。

以上の通り決議する。



2014(平成26)年10月17日
中部弁護士会連合会



提 案 理 由

 1 閣議決定の要旨

安倍内閣が7月1日に行った閣議決定「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」(同日、国家安全保障会議で同じ決定がなされている)3項「憲法第9条の下で許容される自衛の措置」は、次のように述べる。

「我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使することは、従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として、憲法上許容されると考えるべきであると判断するに至った」(3項(3))

「憲法上許容される上記の「武力の行使」は、国際法上は、集団的自衛権が根拠となる場合がある。この「武力の行使」には、他国に対する武力攻撃が発生した場合を契機とするものが含まれるが、憲法上は、あくまでも我が国の存立を全うし、国民を守るため、すなわち、我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置として初めて許容されるものである。」(3項(4))

閣議決定は、我が国に対する武力攻撃が発生してないにもかかわらず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生した場合に、これを武力で排除する集団的自衛権の行使が憲法上許容される場合があることを認めたものである。政府は、これまで、憲法第9条の下において許容されている自衛権の行使は、@我が国に対する急迫不正の侵害(武力攻撃)が存在すること、Aこの攻撃を排除するため、他の適当な手段がないこと、B自衛権行使の方法が必要最小限の実力行使にとどまること、のいわゆる「武力行使の三要件」を満たさなければならないとしてきた。閣議決定は、このうちの第一要件を変更したものである。



 2 集団的自衛権の行使が憲法に違反すること

集団的自衛権すなわち「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」の行使は、前文で平和的生存権を確認し、第9条で戦争放棄、戦力不保持、交戦権否認を定めるなど徹底した恒久平和主義を採用した日本国憲法の許容するところではないことは明白である。

そもそも、憲法第9条の文言は、日本が国際関係において実力の行使を行うことを一切禁じているようにも見える。わが国の主権と独立に対する急迫不正の侵害によって国民の生命と安全が危険に晒されている場合に行使される個別自衛権はともかくとして、集団的自衛権の行使まで許容されるとなれば、憲法9条が禁止するものは殆ど何もなくなってしまうことは明瞭である。それは、戦争の放棄、戦力不保持、交戦権否認をうたった憲法9条の精神を削除するに等しいものと言わなければならない。

政府も、従来から、憲法第9条が戦争放棄(第1項)、戦力の不保持と交戦権の否認(第2項)を規定していることを前提として、憲法第9条の下で許容される自衛権の発動について、集団的自衛権の行使は憲法上許容されないという解釈を採ってきた。

例えば政府が1972(昭和47)年10月に参議院決算委員会に提出した資料5は、「憲法は、第9条において、同条にいわゆる戦争を放棄し、いわゆる戦力の保持を禁止しているが、前文において『全世界の国民が・・・平和のうちに生存する権利を有する』ことを確認し、また、第13条において『生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、・・・国政の上で、最大の尊重を必要とする』旨を定めていることからも、わが国がみずからの存立を全うし国民が平和のうちに生存することまでも放棄していないことは明らかであって、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛の措置をとることを禁じているとはとうてい解されない。」とした上で、「しかしながら、だからといって、平和主義をその基本原則とする憲法が、右にいう自衛のための措置を無制限に認めているとは解されないのであって、それは、あくまで外国の武力攻撃によって国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底からくつがえされるという急迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るための止むを得ない措置としてはじめて容認されるものであるから、その措置は、右の事態を排除するためとられるべき必要最小限度の範囲にとどまるべきものである。」とし、さらに、「そうだとすれば、わが憲法の下で武力行使を行うことが許されるのは、わが国に対する急迫、不正の侵害に対処する場合に限られるのであって、したがって、他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とするいわゆる集団的自衛権の行使は、憲法上許されないといわざるを得ない。」として、集団的自衛権の行使は憲法上許されないとの見解を示した。また、1981(昭和56)年5月29日に示した政府答弁書においても、集団的自衛権について「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」と定義した上で、「我が国が、国際法上、このような集団的自衛権を有していることは主権国家である以上、当然であるが、憲法第9条の下において許容されている自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しており、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されない」旨の見解を表明していた。

集団的自衛権の行使は許されないというのは、日本国憲法9条に関する確立した原則である。閣議決定は、憲法前文、憲法9条に違反する「国務に関する行為」であるから、無効である(日本国憲法98条)。



 3 閣議決定が立憲主義に照らし許されないこと

憲法は、国の最高法規として、国家権力に縛りをかけ、国家権力の濫用を防止して国民の自由と権利を保障するということを目的とする。この立憲主義こそ、多年の歴史を通じて国家権力による専制から自由と権利を獲得してきた人類の英知である。

日本国憲法の重要な基本原理の一つは、まさに前文及び第9条に規定されている恒久平和主義である。その上に立って、日本国憲法は、第98条において憲法の最高法規性を宣言し、第81条において、民主主義の下、選挙により選ばれた多数による立法に対しても司法に対し違憲審査権を与えることによって立憲主義を貫くとともに、第99条において憲法尊重擁護義務を規定し、第96条では容易に改憲することを許さない制度的保障を備えていることによって、国会における多数の暴走、政府の暴走を阻止し、その恒久平和主義をゆるぎないものにしているのである。

日本弁護士連合会は、2005(平成17)年11月11日、第48回人権擁護大会において「立憲主義の堅持と日本国憲法の基本原理の尊重を求める宣言」を採択した。同宣言は、「憲法は、すべての人々が個人として尊重されるために、最高法規として国家権力を制限し、人権保障をはかるという立憲主義の理念を基盤として成立すべきこと」を日本国憲法の基本原理の一つと位置づけた上で、「当連合会は、憲法改正をめぐる議論において、立憲主義の理念が堅持され、国民主権・基本的人権の尊重・恒久平和主義など日本国憲法の基本原理が尊重されることを求める」と宣言した。また、当連合会は、昨年10月18日に行われた定期大会において、「基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の職責と社会的責務に鑑み(弁護士法第1条)、今こそ立憲主義の意義を再確認し、わが国の恒久平和のために、憲法96条の発議要件緩和及び憲法第9条の解釈変更により集団的自衛権の行使を容認する動きに対し断固反対する」と決議した。

前記第2項記載のように集団的自衛権の行使は許されないというのは、確立された憲法上の原則である。日本国憲法の真髄とも言える恒久平和主義について戦後40年以上にわたって堅持し確立されてきた原則を変更するのであれば、憲法改正の手続によって主権者の選択を問うことが立憲主義の当然の帰結である。

政府も、これまでは、憲法解釈の変更により集団的自衛権の行使を認められるかについて「集団的自衛権の行使を憲法上認めたいという考え方があり、それを明確にしたいということであれば、憲法改正という手段を当然とらざるを得ない」と答弁し(1983(昭和58)年2月22日衆議院予算委員会・角田禮次郎内閣法制局長官答弁)、また集団的自衛権に関する憲法解釈の変更があり得るのかについて「(政府の憲法解釈は)それぞれ論理的な追求の結果として示されてきたもの」であり、その上で「政府がその政策のために従来の憲法解釈を基本的に変更するということは、政府の憲法解釈の権威を著しく失墜させますし、ひいては内閣自体に対する国民の信頼を著しく損なうおそれもある、憲法を頂点とする法秩序の維持という観点から見ましても問題がある」と答弁し(1996(平成8)年2月27日衆議院予算委員会・大森政輔内閣法制局長官答弁)、さらに「憲法は我が国の法秩序の根幹であり、特に憲法第9条については過去50年余にわたる国会での議論の積み重ねがあるので、その解釈の変更については十分に慎重でなければならない」(2001(平成13)年5月8日政府答弁書)として、憲法解釈の見直しに慎重かつ否定的な姿勢を貫いてきたのである。

また、2004(平成16)年6月18日の閣議決定は、政府の憲法解釈のあり方について、「政府による憲法の解釈は(中略)論理的な追求の結果として示されてきたものであって、…政府が自由に憲法の解釈を変更することができるという性質のものではないと考えている。仮に、政府において、憲法解釈を便宜的、意図的に変更するようなことをするとすれば、政府の憲法解釈ひいては憲法規範そのものに対する国民の信頼が損なわれかねない」「憲法について見解が対立する問題があれば、便宜的な解釈の変更によるものではなく、正面から憲法改正を議論することにより解決を図ろうとするのが筋(である)」と述べている。

今回の閣議決定は、憲法の法解釈を逸脱しており、政府が自ら厳しく戒めていた「便宜的、意図的」な解釈変更そのものである。このような恣意的な憲法解釈の変更が、憲法に対する国民と国際社会の信頼を損なうことは明白である。

当連合会は、立憲主義の立場から、閣議決定による憲法解釈の変更に断固反対する。



 4 閣議決定の示した限定が歯止めにならないこと

閣議決定は、集団的自衛権の行使について限定的に容認したものに過ぎないと弁解する。確かに、閣議決定は、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」に限定的に集団的自衛権を行使するとしている。

しかし、我が国に対する武力攻撃が行われていないにもかかわらず「我が国の存立が脅かされる明白な危険がある場合」という事態は如何なる事態なのか、内容の説明は全くなされていないに等しい。また、「わが国に対する武力攻撃があったか否か」という客観的な要件とは異なり、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から脅かされる明白な危険の有無」なる要件には主観的な要素が入り込むため、政府の裁量的判断に委ねられる部分が大きい。

閣議決定についての国会審議の中で、安倍首相は、ホルムズ海峡での機雷封鎖が「わが国の存立を根底から脅かす場合には集団的自衛権行使の対象となる場合がある」と答弁しているが、石油などのエネルギーは他の地域からも輸入することは可能であり、「我が国の存立を根底から脅かす」ことはない。これは閣議決定の定める限定のための要件が政府の解釈で如何様にも解釈できることを如実に示していると言うべきである。

閣議決定は、集団的自衛権の行使は、「国民の命と平和な暮らしを守り抜く」ための自衛の措置であると強調する。しかし、過去の戦争は、全て自衛のためにたたかわれたと言っても過言ではない。

集団的自衛権は、戦後、ソ連によるハンガリー介入(1966(昭和41)年)やチェコスロバキア介入(1968(昭和43)年)アフガニスタン侵攻(1980(昭和55)年)、アメリカのベトナム戦争(1966(昭和41)年)、ソ連のチェコスロバキア侵略等に見られるように、軍事大国が周辺国や途上国に対して行った侵略と武力干渉を合理化する論拠とされてきたことは歴史的事実である。我が国が集団的自衛権の行使に踏み込むことは、不法な侵略と武力による内政干渉の加担者になるリスクをおかすことになる。

閣議決定の「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から脅かされる明白な危険がある場合」という限定が、武力行使に対する歯止めとして実質的な機能を果たすことは出来ず、限定的に集団的自衛権の行使を認めたに過ぎないという政府の弁解は成り立たないことは明らかである。



 5 自衛隊の海外での後方支援活動拡大の問題

閣議決定の重大な憲法上の問題点は、集団的自衛権の行使を容認したことに止まるものではない。特に、閣議決定が、「国際社会の平和と安定への一層の貢献」の名の下に海外における自衛隊の後方支援活動を戦闘地域でも展開することを容認したことは重大である。

閣議決定は、自衛隊の海外での後方支援活動の拡大について、「憲法第9条との関係で、我が国による支援活動については、他国の「武力の行使と一体化」することにより、我が国自身が憲法の下で認められない「武力の行使」を行ったとの法的評価を受けることがないよう、これまでの法律においては、活動の地域を「後方地域」や、いわゆる「非戦闘地域」に限定するなどの法律上の枠組みを設定し、「武力の行使との一体化」の問題が生じないようにしてきた」が、今後は、「政府としては、いわゆる『武力の行使との一体化』論それ自体は前提とした上で(中略)、従来の『後方地域』あるいはいわゆる『非戦闘地域』といった自衛隊が活動する範囲をおよそ一体化の問題が生じない地域に一律に区切る枠組みではなく、他国が『現に戦闘行為を行っている現場』ではない場所で実施する補給、輸送などの我が国の支援活動」を展開するものとし、そのための法整備を進めるとした(2項「国際社会の平和と安定への一層の貢献」)。

1990年代以後、自衛隊は度々海外に派遣されてきたが、重要なことは、海外に自衛隊が派遣されて活動する場合でも、その活動は武力の行使にわたるものであってはならず、また他国の武力行使と一体化した活動も行うことはできないとされてきたということである。

自衛隊の海外派遣は、1992(平成4)年にはPKO法が制定されたことを契機として始まった。1996(平成8)年4月のクリントン大統領と橋本龍太郎首相による「日米安全保障宣言−21世紀に向けての同盟」と1997(平成9)年の新ガイドライン(日米防衛協力の指針)を経て、周辺事態法(1998(平成10)年)、船舶検査法の制定(2000(平成12)年)が制定された。2001(平成13)年のニューヨークでの同時多発テロとその後のアフガン戦争は、自衛隊の海外での後方支援活動を広げる転機となった。我が国は、テロ特措法(2001(平成13)年)、イラク特措法(2003(平成15)年)を制定して米軍の占領するアフガン、イラクに次々と自衛隊を派遣した。イラク派兵では人道復興支援活動等という看板を掲げていたが、実際に行ったのは米軍支援が中心だった。

しかし、重要なことは、自衛隊の海外での活動は武力の行使にわたるものであってはならず、また戦闘地域では活動することはできないという原則が貫かれていたことである。

例えば、周辺事態法では、周辺事態が発生した場合に日本が米軍支援を行うことになったが、「武力の行使又は武力による威嚇」にわたる行動はできず(2条2項)、後方支援活動についても非戦闘地域、すなわち「現に戦闘行為(国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為をいう。以下同じ。)が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる」地域でしか活動できず(3条)、また、武器の供給、戦闘作戦行動の準備に入った航空機に対する給油・整備は行うことはできないとされている。イラク特措法でも、自衛隊が活動できるのは非戦闘地域でなければならないとされ、万一、近傍で戦闘行為が行われたり、戦闘行為が予測される事態となったりした場合には活動を中止しなければならず、武力行使と一体となった活動はできないとされている(イラク特措法8条等)。

このように、1990年代以降、自衛隊の海外派遣が広がってきたが、「武力の行使は行わず、他国の武力行使と一体化した活動は行わない」「戦闘地域では活動しない」という最後の一線が残されていたからこそ、戦後69年間、自衛隊が海外で戦闘行為を行ったことはなく、自衛隊が他国の人を一人も殺さず、一人の戦死者も出すことはなかったのである。

ところが、閣議決定は、「武力行使との一体化」論に関する考え方を転換し、「現に戦闘行為を行っている現場」でさえなければ自衛隊は支援活動に従事できるというのである。「現場」というのは「地域」よりも狭い地理的範囲を意味するから、自衛隊は銃弾が現に飛飛び交っているごく一部の地域を除いて後方支援活動に従事できることになる。

自衛隊が、その活動する期間に戦闘が発生する危険性がある地域、すなわち従来は「戦闘地域」として活動が許されないとされてきた地域でも補給、輸送等後方支援活動を展開するができることになれば、自衛隊が攻撃の標的とされる可能性が高くなる。自衛隊員の命が危険に晒されるのである。また、自衛隊が攻撃されれば当然応戦することになるため、自衛隊が戦闘行動に巻き込まれる危険性も一層高くなる。日本が海外で戦闘行動に巻き込まれるのである。

自衛隊の活動地域が広がり、戦闘現場と近接した地域で補給、輸送等の後方支援活動を行うこととなる結果、自衛隊の後方支援活動が他国の武力行使と一体となると評価される場合が生じることは明らかである。

これまで自衛隊の後方支援活動が「戦闘地域」ではできないとされてきた中でも、自衛隊の活動が武力行使と一体となり憲法違反と判断される活動にわたる場合があったことは、名古屋高等裁判所平成18年4月17日判決が示すところである(同年5月2日確定)。

名古屋高裁判決は、次の通り判示する。

「航空自衛隊は,前記認定のとおり,平成18年7月ころ以降バグダッド空港への空輸活動を行い,現在に至るまで,アメリカが空挺隊員輸送用に開発したC−130H輸送機3機により, 週4回から5回,定期的にアリ・アルサレム空港からバグダッド空港へ武装した多国籍軍の兵員を輸送している」「航空自衛隊の空輸活動は,それが主としてイラク特措法上の安全確保支援活動の名目で行われているものであり,それ自体は武力の行使に該当しないものであるとしても,多国籍軍との密接な連携の下で,多国籍軍と武装勢力との間で戦闘行為がなされている地域と地理的に近接した場所において,対武装勢力の戦闘要員を含むと推認される多国籍軍の武装兵員を定期的かつ確実に輸送しているものであるということができ,現代戦において輸送等の補給活動もまた戦闘行為の重要な要素であるといえることを考慮すれば(甲B161,当審における山田朗証人),多国籍軍の戦闘行為にとって必要不可欠な軍事上の後方支援を行っているものということができる。したがって,このような航空自衛隊の空輸活動のうち, 少なくとも多国籍軍の武装兵員をバグダッドへ空輸するものについては,前記平成9年2月13日の大森内閣法制局長官の答弁に照らし,他国による武力行使と一体化した行動であって,自らも武力の行使を行ったと評価を受けざるを得ない行動であるということができる。よって,現在イラクにおいて行われている航空自衛隊の空輸活動は,政府と同じ憲法解釈に立ち,イラク特措法を合憲とした場合であっても,武力行使を禁止したイラク特措法2条2項,活動地域を非戦闘地域に限定した同条3項に違反し,かつ,憲法9条1項に違反する活動を含んでいることが認められる」

このように、自衛隊の後方支援活動が戦闘地域では許されないとのイラク特措法の下ですら憲法違反の活動が行われていたのであるから、その規制が緩和され、「現に戦闘行為が行われている現場」以外の地域であれば活動できるということになれば、自衛隊が他国の武力行使と一体となった後方支援活動や武力行使そのものを行う危険性は著しく高まることは明らかである。



 6 結論

当連合会は、政府に対し、集団的自衛権行使を容認し、自衛隊の海外での武力行使に道を開く閣議決定を直ちに撤回することを強く求めるとともに、憲法違反の閣議決定に基づく安全保障関係法令の改悪作業を直ちに中止することを強く求める。


以上



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