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今こそ立憲主義の意義を再確認し、
憲法第96条の発議
要件緩和及び集団的自衛権の行使の容認に反対する決議

先の第二次世界大戦の惨禍は、日本国民に深い悲しみと反省をもたらすとともに、ひとたび政府が国家権力を行使すれば基本的人権の侵害の最たる戦争にもいやおうなしに国民が巻き込まれていく怖さを知らしめた。その反省に基づいて、日本国憲法は、前文に平和的生存権を高らかに謳い、第9条に戦争の放棄と戦力を保持しないという徹底した恒久平和主義を定め、政府の行為に縛りをかけた。各国の憲法の成り立ちと特徴は、各国の反省を含めた歴史に由来するところ、日本国民及び政府は、日本国憲法がこの恒久平和主義を世界に向けても貫く重みと決意を、戦後68年という歳月を経た今も決して忘れてはならない。

憲法は、国の最高法規として、国家権力に縛りをかけ、国家権力の濫用を防止して国民の自由と権利を保障するということを目的とする。この人類普遍の原理である立憲主義こそ、多年の歴史を通じて国家権力による専制から自由と権利を獲得してきた人類の英知である。そして、日本国憲法は、民主主義の下、選挙により選ばれた多数による立法に対しても司法に違憲審査権を与えて立憲主義を貫くとともに、容易に改憲することを許さない制度的保障を備えることなどによって、多数の暴走、政府の暴走を阻止し、恒久平和主義をゆるぎないものとしている。

ところが、政府は、憲法第96条1項が憲法改正の発議要件として、衆参両院の総議員の3分の2以上の賛成を求めているところ、これを過半数に緩和しようとしている。また、政府は「憲法第9条下において許容される自衛権の行使は、わが国の防衛のために必要最小限度の範囲にとどまるべきものであり、集団的自衛権は、その範囲を超えるものであって憲法上許されない」との憲法解釈を定着させていたところ、この解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認しようとする方針を打ち出している。現にその容認を前提とした国家安全保障基本法の制定に向けて動き、また、その解釈変更に消極的であるとされる内閣法制局の長官を異例の人事により交代させるなどして、解釈変更に意欲を見せている。このような政府の発議要件の緩和や憲法解釈変更の動きは、わが国の立憲主義及び恒久平和主義に反するものと言わざるをえない。

よって、当連合会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の職責と社会的責務に鑑み(弁護士法第1条)、今こそ立憲主義の意義を再確認し、わが国の恒久平和のために、憲法第96条の発議要件緩和及び憲法第9条の解釈変更により集団的自衛権の行使を容認する動きに対し断固反対する。

以上のとおり、決議する。

2013年(平成25年)10月18日
中部弁護士会連合会

提 案 理 由

第1 はじめに

弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし(弁護士法第1条)、当連合会は、司法の改善、発達並びに人権擁護及び社会正義の実現を目的としている(当連合会規約第4条二号)。

当連合会は、憲法第96条の憲法改正の発議要件の緩和問題や憲法第9条の解釈変更による集団的自衛権の行使の容認問題を看過することは絶対にできない。これは、どの政権や政党が主張しているから賛成・反対というレベルの問題ではない。これらの問題は、わが国民にとどまらず人類全体を惨禍に巻き込む人権侵害の最たる戦争に直結する問題であり、弁護士の職責と社会的責務に基づいて本決議を提案するものである。以下、その提案理由を述べる。



第2 日本国憲法と恒久平和主義

先の第二次世界大戦の惨禍は、日本国民に深い悲しみと反省をもたらした。それとともに、ひとたび政府が国家権力を行使すれば、全政党が解散させられ大政翼賛会が結成されて行った過程にみられるように、基本的人権の侵害の最たる戦争に全国民がいやおうなしに巻き込まれていく怖さを日本国民は知らしめられた。日本国憲法は、その反省に基づいて、前文に平和的生存権を高らかに謳い、第9条に戦争の放棄と戦力を保持しないという徹底した恒久平和主義を定め、政府の行為に強い縛りをかけ、日本国民が、国家の名誉をかけ、全力をあげて崇高な理想と目的達成することを誓ったのである。



第3 立憲主義の意義の再確認と日本国憲法

  1.  憲法は、国の最高法規として、国家権力に縛りをかけ、国家権力の濫用を防止して国民の自由と権利を保障するということを目的とする。この人類普遍の原理である立憲主義こそ、多年の歴史を通じて国家権力による専制から自由と権利を獲得してきた人類の英知である。
  2.  本来、立憲主義は、憲法自体を批判する自由も有してこそ自由主義憲法のはずであり、それが原理原則であるが、各国の憲法の成り立ちと特徴は、各国の反省を含めた歴史に由来する。例えば、日本と同じく第二次世界大戦後に制定したドイツの新憲法の特徴として、戦前にナチスの台頭によりワイマール憲法が破壊された苦い経験に基づき「自由な民主的基本秩序」にあたる憲法の基本価値については改正を禁止している。
  3.  そこで、各国の憲法を比較した場合の日本国憲法の特徴を考えると、それはまさに前文及び第9条に規定されている恒久平和主義であり、その不変性にある。そして、日本国憲法は、第98条において憲法の最高法規性を宣言し、第81条において、民主主義の下、選挙により選ばれた多数による立法に対しても司法に対し違憲審査権を与えることによって立憲主義を貫くとともに、第99条において憲法尊重擁護義務を規定し、第98条では容易に改憲することを許さない制度的保障を備えていることによって、多数の暴走、政府の暴走を阻止し、その恒久平和主義をゆるぎないものにしている。
  4. ちなみに、日本弁護士連合会は、2005年11月11日、第48回人権擁護大会において「立憲主義の堅持と日本国憲法の基本原理の尊重を求める宣言」を採択した。同宣言は、「憲法は、すべての人々が個人として尊重されるために、最高法規として国家権力を制限し、人権保障をはかるという立憲主義の理念を基盤として成立すべきこと」を日本国憲法の基本原理の一つと位置づけた上で、「当連合会は、憲法改正をめぐる議論において、立憲主義の理念が堅持され、国民主権・基本的人権の尊重・恒久平和主義など日本国憲法の基本原理が尊重されることを求める」と宣言している。


第4 憲法第96条の発議要件緩和及び集団的自衛権の行使の容認の動きに反対する

今や戦後68年、日本国憲法が施行されて66年が経過した。この長い歳月の流れの中で戦争の悲惨さや惨禍の凄まじさを直接知る者は徐々に減り、ともすれば日本国民の惨禍の記憶が風化しかねない状態となっている。そして、今、政府による日本国憲法の恒久平和主義に反する動きが具体化している。



1.憲法改正の発議要件の緩和に対して

(1) 日本国憲法第96条は,「この憲法の改正は,各議院の総議員の3分の2以上の賛成で,国会が,これを発議し,国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には,特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において,その過半数の賛成を必要とする」と定めている。
 これに対し、自由民主党が2012年4月27日に決定した憲法改正草案第100条には、「この憲法の改正は、衆議院又は参議院の議員の発議により、両議院のそれぞれの総議員の過半数の賛成で国会が議決し、国民に提案してその承認を得なければならない。この承認には、法律の定めるところにより行われる国民の投票において有効投票の過半数の賛成を必要とする」と規定されており、現行第96条1項の緩和が提案されている。そして、2013年1月30日、衆議院本会議において安倍晋三(以下「安倍氏」という)内閣総理大臣は、「(憲法改正については)党派ごとに異なる意見があるため、まずは多くの党派が主張している憲法96条の改正に取り組む」と答弁している。
 そして、先に行われた2013年7月の参議院選挙においては、自由民主党と日本維新の会は96条改正を選挙公約に掲げ、みんなの党も同条項の改正に前向きな姿勢を示していた。

(2) このように国会が憲法の改正の発議を過半数の賛成で行うことができるとして改憲手続のハードルを法律改正レベルまで下げれば、国民の一瞬の政治的興奮による選挙結果に基づいた立法機関の多数の暴走、あるいは、政府の暴走を阻止することが困難となり、それは、わが国における立憲主義及び恒久平和主義をゆるがすことに直結するものである。当連合会は、憲法第96条の発議要件の緩和の動きを決して許すわけにはいかない。



2.集団的自衛権の行使の容認の動きに対して

(1) 集団的自衛権に関する従来の政府の憲法解釈

従来、政府は、憲法第9条第1項が戦争放棄、同第2項が戦力の不保持と交戦権の否認を規定していることを前提として、憲法第9条の下で許容される自衛権の発動については、@わが国に対する急迫不正の侵害(武力攻撃)が存在すること、Aこの攻撃を排除するため、他の適当な手段がないこと、B自衛権行使の方法が必要最小限度の実力行使にとどまることの3要件に該当する場合に限定していた(1969年3月10日参議院予算委員会・高辻正己内閣法制局長官答弁、1972年10月14日参議院決算委員会提出資料、1985年9月27日政府答弁書)。
 続いて、政府は、1981年5月29日の政府答弁書において、集団的自衛権について「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもつて阻止する権利」と定義した上で、「わが国が、国際法上、このような集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上、当然であるが、憲法第9条の下において許容されている自衛権の行使は、わが国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しており、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されない」旨の見解を表明していた。この政府見解と憲法解釈は、その後30年以上にわたってわが国において一貫して維持されている。
 したがって、例えわが国と密接な関係にあるといえども、外国が他国から武力攻撃を受けた場合に、自衛隊が集団的自衛権を行使してその武力攻撃を阻止することは、上記@の要件を欠き、自衛権行使の必要最小限度の範囲を超え、憲法に違反して許されない。
 さらに、政府は、憲法解釈の変更により集団的自衛権の行使を認められるか否かについて、「集団的自衛権の行使を憲法上認めたいという考え方があり、それを明確にしたいということであれば、憲法改正という手段を当然とらざるを得ない」と答弁している(1983年2月22日衆議院予算委員会・角田禮次郎内閣法制局長官答弁)。続いて、集団的自衛権に関する憲法解釈の変更があり得るのか否かについて、「(政府の憲法解釈は)それぞれ論理的な追求の結果として示されてきたもの」であり、その上で「政府がその政策のために従来の憲法解釈を基本的に変更するということは、政府の憲法解釈の権威を著しく失墜させますし、ひいては内閣自体に対する国民の信頼を著しく損なうおそれもある、憲法を頂点とする法秩序の維持という観点から見ましても問題がある」と答弁し(1996年2月27日衆議院予算委員会・大森政輔内閣法制局長官答弁)、続いて「憲法はわが国の法秩序の根幹であり、特に憲法第9条については過去50年余にわたる国会での議論の積み重ねがあるので、その解釈の変更については十分に慎重でなければならない」(2001年5月8日政府答弁書)として、憲法解釈の見直しに慎重かつ否定的な姿勢を貫いてきた。

(2) 集団的自衛権行使を容認する最近の動き

ところが、自由民主党は、2012年12月の衆議院議員総選挙(以下「総選挙」という。)に大勝し、政権与党となったところ、これを契機に政府・自民党において集団的自衛権の行使を容認する動きが急速に進んでいる。同年10月31日、安倍氏は、臨時国会衆議院本会議の代表質問で、「集団的自衛権の行使を可能とすることによって、日米同盟は、より対等となり、強化され」ると、憲法解釈の見直しを求めた。その後、総選挙で大勝し、内閣総理大臣に就任した安倍氏は、2013年1月13日に放送されたテレビ番組で、「集団的自衛権行使の(憲法解釈)見直しは安倍政権の大きな方針の一つ」と述べた。日米両政府は、有事の際の自衛隊と米軍の協力の在り方を定めた「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)を見直す作業に着手し、わが国の集団的自衛権に関する議論も反映しながら進めていく方針とされる。そして同年2月8日、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」が約5年ぶりに再開された。同懇談会は、2008年に政府の従前の憲法解釈を変更し、現時の政府が考える集団的自衛権の行使を認めるよう求める旨の報告書を政府に提出したが、今回は安倍氏が前回の検討事項に加え、自由民主党が総選挙の公約に掲げた国家安全保障基本法の制定など、新たな課題についても検討するよう諮問した。2013年内に首相への報告書をまとめる方針とされている。
 これらを踏まえて、安倍氏は、2013年2月に行われたオバマアメリカ合衆国大統領との首脳会談では、歴代首相として初めて、現時の政府解釈を基本とする集団的自衛権の行使容認に取り組む考えを明らかにした。
 さらに、安倍氏は、2013年8月、その政府解釈変更に消極的であるとされる内閣法制局の長官を異例の人事で交代させるなどして、解釈変更に意欲を見せている。



3.集団的自衛権に関する日本弁護士連合会の意見

ちなみに、日本弁護士連合会は、第48回人権擁護大会において、立憲主義、国民主権、基本的人権尊重、恒久平和主義を憲法の理念及び基本原理として確認し、集団的自衛権の行使を認めた上でその範囲を拡大しようとする改憲論議に対し、日本国憲法の理念や基本原理を後退させることにつながりかねないとの危惧を表明する宣言を採択し(「立憲主義の堅持と日本国憲法の基本原理の尊重を求める宣言」)、2008年10月3日、第51回人権擁護大会において採択された「平和的生存権および日本国憲法第9条の今日的意義を確認する宣言」は、「憲法第9条は、現実政治との間で深刻な緊張関係を強いられながらも、自衛隊の組織・装備・活動等に対し大きな制約を及ぼし、海外における武力行使および集団的自衛権行使を禁止するなど、憲法規範として有効に機能している」としている。

さらに、日本弁護士連合会は、2013年3月14日、「集団的自衛権行使の容認及び国家安全保障基本法案の国会提出に反対する意見書」を発表し、同年5月31日に行われた定期総会において、「集団的自衛権の行使容認に反対する決議」を採択している。



4.国家安全保障基本法案の問題点

2012年7月に、自由民主党総務会が決定した国家安全保障基本法案(概要 以下「国家安全保障基本法案」という)は、政府が憲法上許されないとしている集団的自衛権の行使を、憲法改正の手続を経ることなく、法律により容認しようとするものである。

すなわち、国家安全保障基本法案第10条は、「国際連合憲章に定められた自衛権の行使」というタイトルの下に、「わが国、あるいはわが国と密接な関係にある他国に対する、外部からの武力攻撃が発生した事態であること」(第1項第1号)を、わが国が自衛権を行使する場合の遵守事項と定めている。つまり、わが国は当然に、国際連合憲章が定める集団的自衛権を、憲法第9条の制約なしに行使できることを前提としているのである。その上で、国際連合安全保障理事会への報告(同項第2号)や「終了の時期」(同項第3号)、「わが国と密接な関係にある他国」と判断できるための関係性(同項第4号)、被害国からの支援要請の存在(同項第5号)などの遵守事項を定めている。

このような憲法違反の集団的自衛権を認める法律は、憲法第9条及び第98条第1項に反して、その効力を認められないものである。



第5 まとめ

以上のとおり、当連合会は、弁護士の職責と社会的責務に鑑み、日本国憲法の原点に立ち返り、今こそ立憲主義の意義を再確認し、わが国の恒久平和のために、憲法第96条の発議要件緩和及び憲法第9条の解釈変更により集団的自衛権の行使を容認する動きに対し断固反対する。

よって、本決議案を提案する。



以 上




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