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特定秘密保護法案の衆議院での可決に反対する声明

 政府は,本年10月25日に特定秘密の保護に関する法律案(以下「本法案」という)を閣議決定して衆議院に提出し,現在は同院で本法案が審議されているところであるが,以下の理由に基づき,本法案が衆議院で可決されて参議院に送付されることに,断固として反対する。

1  本法案では,行政機関の長が「特定秘密」の指定をするものとされている。
しかし,指定をできる行政機関が限定されていないために殆ど総ての行政機関が指定をできることとなり,行政に関する情報の殆どが指定の対象となり得ることを否定できない。
 しかも,指定された情報が「特定秘密」として適正な情報か否かを客観的に担保する制度が存在していないから,行政機関の長による恣意的な指定を制度的に排除することはできず,本来国民に公開されるべき情報が「特定秘密」として国民に秘匿されるおそれを防止することができない。
 また,指定の有効期間についても,上限が5年とされてはいるものの,更新は可能であって行政機関の長による恣意的な更新を制度的に排除することはできない。さらには,指定期間が30年を超えた場合でも,内閣の承認があれば無期限に特定秘密とすることも可能とされている。
 この点,新聞報道によれば,与党は,特定秘密として指定してから30年後に公開することを原則とすることに本法案を修正する意向である由であるが,例外を認める点で不充分であるし,この修正は,指定の有効期間の更新についての客観的相当性を担保することには何ら役立たない。


2  本法案では,秘密指定の対象となる「特定秘密」の範囲を,(1)防衛,(2)外交,(#)特定有害活動の防止,(4)テロリズムの防止の各事項であって,「その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため,特に秘匿することが必要であるもの」としている。
 しかし,本法案における特定秘密の範囲は,不明確にして広範に過ぎるものである。
すなわち,防衛に関する事項(第1号)は,自衛隊法別表第4と同様であって限定的と評価し得るものではない。外交に関する事項(第2号)は,「安全保障」という概念が抽象的に過ぎてその捉え方如何ではその範囲が無限定に広がるおそれがある。特定有害活動の防止に関する事項(第3号)は,要件が「外国の利益を図る目的」「我が国及び国民の安全への脅威」「その他の重要な情報」など抽象的で曖昧な文言になっているために範囲が極めて不明確である。第4号(テロリズムの防止に関する事項)は,「テロリズム」の定義(第12条第2項第1号)が不明確かつ広範に過ぎるため,「テロリズム」の捉え方如何によっては同号の適用範囲を無限定に拡大させることも可能となりかねない。
 また,「特定秘密」の範囲について,「その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため,特に秘匿することが必要であるもの」という要件を付加して限定するとしても,「安全保障」という概念の危険性については上述したとおりであるし,「著しい支障を与えるおそれ」という概念も抽象的に過ぎるものである上に,この要件の存否も「特定秘密」に指定する行政庁の長が自ら判断するのであって恣意的な判断を制度的に排除することはできないのであるから,実質的には「特定秘密」の範囲を限定する機能を果たさないおそれは極めて大きいというべきである。


3  本法案では,特定秘密の取扱いの業務を行うことのできる行政庁の職員等や行政機関との契約を行う業者の役職員(以下「特定秘密取扱業務従事者」という)を定めるに際して,「適正評価」を実施する旨を定めている。
しかし,適正評価の対象となる事項には,精神疾患に関する病歴及び信用状態等の極めてセンシティブな情報が含まれている上に,一定の事項については特定秘密取扱業務従事者の家族や同居人の氏名,生年月日,国籍及び住所も含まれている。
 特定秘密取扱業務従事者のうちの行政機関との契約を行う業者の役職員は一般市民であり,且つ行政庁の職員等の家族や同居人の多くも一般市民であることを勘案すれば,特定秘密取扱業務従事者による同意が調査の要件とされているとしても,これらの者のプライバシー権が侵害されるおそれは極めて大きい。


4  本法案では,特定秘密取扱業務従事者等による特定秘密の漏えい行為を犯罪として処罰することとしているが,故意による場合だけでなく過失による場合をも処罰対象とすることは,刑罰の補充性,謙抑性の原則に照らして極めて疑問である。また,未遂罪も処罰対象としていることから処罰範囲が無限定に拡大するおそれも否定できないし,共謀,独立教唆及び煽動も処罰対象とされていることは,処罰範囲が不明確とならざるを得ないために罪刑法定主義の観点から看過することができない。
 また,本法案では,一定の行為態様による特定秘密の取得行為も犯罪として処罰することとしているが,この行為態様の中には,「その他の特定秘密の保有者の管理を害する行為」が含まれている。
この構成要件は,抽象的に過ぎて甚だ不明確であり,特定秘密取扱業務従事者等による特定秘密の漏えい行為についての共謀,独立教唆及び煽動も処罰対象とされていることと相俟って,処罰範囲が無限定に拡大するおそれが極めて大きく,罪刑法定主義の観点からはもとより,特定秘密取扱業務従事者等への取材や情報提供の働きかけという行為も処罰対象となり得る危険性を内包していると評価せざるを得ない。
 従って,こうした処罰規定の存在自体が,各種報道機関の取材活動やオンブズマン活動等の各種の市民活動に深刻な萎縮的効果をもたらすことは明白であり,報道機関の取材の自由と報道の自由及び国民の表現の自由や知る権利を侵害する危険性は甚だしい。
 この点,本法案には,報道の自由への配慮規定が設けられているが,憲法上の権利として報道の自由と国民の知る権利が存することは判例法上確定しており,配慮規定を設けざるを得ないこと自体が,本法案が国民の知る権利とこれに資する報道の自由を侵害する高度の危険性を内包していることの何よりの証左である。
 さらには,国会議員も処罰対象とされていることからすれば,国会議員による行政機関への種々の調査活動や国会議員間での自由な討論及び有権者への国政報告活動を総て刑罰を以って禁止することも可能となり,国民主権に基づく議会制民主主義そのものが危殆に瀕する可能性も否定できないところである。


本法案については,日本国憲法の諸原理を尊重する立場から,上述した以外にも様々な問題点の存することがつとに指摘されているところであるが,上述した問題点からだけでも,日本国憲法の下で今日まで培われてきた国民主権主義,議会制民主主義,自由主義(基本的人権の尊重)及び平和主義の各理念を根本から覆すに足りる著しい危険性を内包していることは明らかである。
 よって,当連合会は,本法案が立法化されることに断固として反対し,衆議院に対して本法案を可決して参議院に送付しないように強く求める。

        2013(平成25)年11月18日

中部弁護士会連合会
理事長 北 川  恒 久




※ 本文3項の「適正評価」は「適性評価」の誤記でした。本理事長声明が執行ずみであることに鑑み,本文では敢えて誤記のままとしておりますが,ここにお詫びして訂正いたします。

平成25年11月22日 事務局長  木 道 久




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