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確実な安全性が確保されない限り、大飯原発など
停止中の原子力発電所の再稼働を許さない声明

2011年3月11日の東日本大震災の地震・津波に引き続いて発生した福島第一原子力発電所事故は、原子炉3機のメルトダウン(炉心融解)・メルトスルー(炉心貫通)と大量の放射性物質の放出という、未曽有の大事故となり、放射性物質の放出は継続中で、環境が汚染され続けている。現在でも約10万人の住民が居住地域への立入りを禁止されて避難生活を強いられている。福島県外に避難している住民も6万人を超えるとされる。福島第一原子力発電所事故被害者の多数が現在もなお過酷な状況に置かれていることは極めて重大な人権侵害である。


福島第一原子力発電所事故のような事故の再発やこれを更に上回る規模の新たな原子力発電所事故が起きれば、日本社会は崩壊しかねない。このような深刻な災害を二度と発生させてはならない。


福島第一原子力発電所事故の原因はいまだ明らかになっておらず、事故原因を踏まえた安全対策も確立できていない。にもかかわらず、野田内閣総理大臣は、本年6月8日、対症療法的な津波対策・電源対策を講じただけの関西電力大飯原子力発電所(以下「大飯原発」という。)3、4号機について、再稼働を行う判断を表明した。多くの国民が現時点での原発の再稼働に反対している中で、「福島を襲った地震・津波が起こっても事故を防止できる対策と態勢は整っている」などと強弁して、大飯原発3、4号機の再稼働を進めようとする政府の姿勢は、多くの国民を不安に陥れるものである。当連合会管内には、大飯原発3,4号機のほか、大飯原子力発電所1、2号機、敦賀原子力発電所に2基、美浜原子力発電所に3基、高浜原子力発電所に4基、(以上福井県)、志賀原子力発電所に2基(石川県)の各原子力発電所(いずれも定期検査のため停止中)、並びに、福井県に新型転換炉ふげん(廃止措置中)、高速増殖原型炉もんじゅ(停止中)が立地しているが、いったん大飯原発の再稼働がなされたときは、安全性の確認が不十分なまま、これら停止中の他の原子力発電所の再稼働もなし崩し的に決定されるのではないかが危惧される。


まず、安全基準の抜本的見直しに当たっては、福島第一原子力発電所事故の原因や発生機序等の実態解明が不可欠であるが、事故発生から1年以上が経過し、2011年12月以降、東京電力株式会社の社内調査委員会の中間報告書や政府の事故調査・検証委員会の中間報告書及び福島原発事故独立検証委員会の報告書が相次いで公表されたものの、現時点においても、福島第一原子力発電所事故の原因・発生機序は、依然として不明なままである。さらに、国会に設置された事故調査委員会が安全規制体制を含めた実態を調査中であり、その調査結果は本年6月頃に公表されることとなっている。このように事故の実態は依然調査中であるが、福島第一原子力発電所では想定した地震が過小であり、耐震設計の解析に不備があったことが明らかとなっている。さらに、以前から地震・津波による共通原因故障及び全電源喪失事故が起きる危険性とシビアアクシデント(過酷事故)対策の必要性が指摘されていたにもかかわらず、国は、これらの対策を安全指針等には盛り込まなかったところ、福島第一原子力発電所では現実に事故が発生し、安全指針が不備であったことも明らかとなっている。したがって、福島第一原子力発電所の事故発生に伴い顕在化した原子力発電所の安全性の問題は、現在のところ全く解決されていない状況であり、現時点では、原子力発電所の安全性が十分に確保されているとはいい難い。


原子力安全委員会でも、安全設計審査指針や耐震設計審査指針等の見直しがなされ、2012年3月には、耐震設計審査指針と安全設計審査指針等の改定案が示された。しかし、事故実態が未解明のため、耐震設計審査指針のうち地震に関しては改定はほとんどなされていない。安全設計審査指針についても、共通原因故障やシビアアクシデントについての見直しは今後の検討課題にとどめられている。ストレステスト(耐性評価)一次評価の基準は福島第一原子力発電所事故発生以前の従来の安全審査指針であり、それと比較してどれだけ余裕度があるかを評価するものにすぎない。福島第一原子力発電所事故を踏まえ、安全設計審査指針や耐震設計審査指針について、全面的な見直しが求められている状況の下で、従来の安全審査指針を前提とするストレステストをクリアしても、原子力発電所の安全性が確保されたとは到底いえない。班目春樹原子力安全委員会委員長も、ストレステストの一次評価だけでは安全性評価として不十分と述べているところである。さらに、国は、「安全性に関する判断基準」を新たに設定して、停止中の原子力発電所の再稼働を企図しているが、そもそも福島第一原子力発電所事故の実態が未解明なままでの判断基準では、安全性を保証したことにはならない。しかも新たな「判断基準」の評価項目は、ストレステストのそれと重複している反面、対策に時間がかかる共通原因故障やシビアアクシデント対策は含まれていないため、事故原因を踏まえた新たな安全基準とは到底いえない。このように、安全基準の見直しがいまだ終了していないことに加え、現段階での再稼働については原子力発電所周辺、更に広域の地域において、反対ないし慎重な意見が数多く、このような意見は尊重されなければならない。


更に、電力需給についても、2011年の夏季も、2011年から2012年にかけての冬季も、心配された電力不足は発生しなかった。2011年7月29日にエネルギー・環境会議で決定された「当面のエネルギー需給安定策」によると、2012年夏については1、657万kwの電力が不足するとされていたが、他方2011年11月1日のエネルギー・環境会議の電力需給に関する検討会合の公表資料によれば、2011年の夏のピーク需要の実績を前提とすると、2012年夏の供給力1億6、297万kwに対し、需要は1億5、661万kwにすぎず、636万kwの余裕(予備率4.1%)があるとされている。さらに、供給力642万kwの増強も検討されており、ピーク時の節電等への協力が適切になされれば、今夏の電力需要にも十分対応は可能と考えられる。したがって、電力不足を理由に原子力発電所の再稼働を進めることには根拠がない。

よって、当連合会は、深刻な原子力発電所事故被害の再発を未然に防止するため、大飯原発を含む、現在停止中の原子力発電所については、福島第一原子力発電所事故の原因を解明し、その事故原因を踏まえた安全基準について、国民的議論を尽くし、それによる適正な審査によって確実な安全性が確保されない限り、再稼働しないことを求める。

        2012(平成24)年6月9日


中部弁護士会連合会
理事長 中 村 正 典




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