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子どもの「学びの平等」を求める決議・提案理由
〜子どもの「学びの平等」のために社会と私たちがなすべきこと〜

  1. 現在、子どもたちの多くが直面している「新しい貧困」の現状が、深刻さを増していることは周知のとおりです。21世紀に入って顕在化した経済格差をもたらす社会構造の変化、とりわけ教育福祉の分野にも市場原理が取り入れられ、自己責任論が強調されることにより、「障害」のハンディをもつ子ども、ひとり親家庭、外国籍の家庭など経済的、社会的ハンディをもつ家庭の子どもなど、子ども間の格差が拡大してきたのに加えて、世界同時不況がもたらした不況、失業、家庭の経済基盤の崩壊によって、いま子どもたちの多くは「新しい貧困」の問題に直面しています。

    その「新しい貧困」は、保護者の経済状況が悪化した子どもたちを教育課程、とりわけ義務教育課程以後の教育課程から排除し、子どもたちの間に深刻な教育格差をもたらしつつあります。保護者がリストラ、派遣切りによって職と住居を失う結果、高校への通学を諦めざるを得ない子どもがいます。父親の失職、借金、家族間の葛藤による父母の離婚、パートタイムで生活を支える母親と弟妹の生活を助けるため、アルバイトをするために高校への通学を諦めざるをえない子どもがいます。

    家庭への福祉的支援施策の貧困は、さまざまなハンディを抱えた家族を直撃する経済的困窮をもたらすばかりではなく、家族の社会的な孤立、物心共に余裕を失った家族間の葛藤、あるいは保護者が子どもを受けとめることができなくなり、放任や子どもの虐待にさえ至るなど、人間関係の貧困をもたらしています。

    いま子どもたちが直面している貧困問題は、大人社会の経済的・精神的貧困によってもたらされているということができます。そのような環境のもとで、かけがえのない個人として受容され、豊かな成長発達を支援されることのない子どもたちは、孤立し、孤独感や不安を抱え、適切な自己肯定感をもって良い人間関係を形成することができないで悩み苦しんでいます。思春期にあって、家庭でも、学校、地域でも温かく受容され、支えられていると感じる体験もないまま、自己肯定感を失い、自分の将来に希望をもてない孤独と不安を抱き、非行に陥る子どももいます。


  2. 子どもが直面する困難を乗り越えるために何より必要なことは「学び」です。子どもはそれぞれの成長発達を遂げるために「学び」の機会を平等に保障されるべきです。それは単なる学校の学歴の取得ではなく、多様な学びの機会を保障することです。

    子どもは何より社会において自分自身の存在を大切にされ(尊厳)、その価値を認められることを自覚し、同時に他者の人権と基本的自由を大切にすることの意味を知るために学び、そのような学びを通じて豊かな人間関係・社会的関係を形成する力を伸ばすことができるのです。それは、子どもたち自身が直面する貧困の問題を乗り越えて、自分自身の未来を拓くために必要な学びということができます(国連子どもの権利条約第28条、29条、40条)。

    そのような学びの機会が平等に保障されず、格差が存在する環境のなかでは、子どもたちは豊かな人間関係・社会的関係に出会うこともできず、そこには貧困の無限連鎖が生じるばかりです。その意味において、現代の貧困問題は、経済格差のみならず、それがもたらす人間関係の貧困こそ、子どもの成長発達にとっては深刻な問題であるというべきです。


  3. 今般、貧困対策として施行された高校無償化法について、朝鮮高級学校をその対象から除外する政治的な動きがありました。それは、まさしく子どもの学びの平等に反する誤った動きであることは明らかであり、大人社会の精神の貧困を露呈したものでした。幸い、朝鮮学校に通学する子どもたちの訴えを受けとめた日弁連をはじめ各地の弁護士会からの意見表明や良識ある世論に動かされて、朝鮮高級学校除外の政治的動きは是正されました。

    民族や文化の違いを超えて、それぞれの違いを認め合い、相互理解と友好を深めるためにこそ、学問の自由、学ぶ権利の平等な保障は大切なものです。


  4. 現在、小中学校の不登校は文科省調査によれば毎年12万人を超える状況にあります。学校以外の学びの場であるフリースクールやフリースペースなどに通う子どもたちの家庭も経済的困窮により子どもの学びを断念せざるを得ない状況に直面し、援助を必要としています。たとえば、フリースクールやフリースペースへ通うための定期券を通学定期券と同等に保障することによって交通費の負担の軽減を図る必要があります。

    また、定時制・単位制高校、通信制高校などに通学し、あるいは通学することを希望する子どもたちも同様に学費等の援助を必要とする状況にあります。

    これらの子どもたちの学びの機会が平等に保障されることは、生存権、教育への権利に基づく子どもの権利であるというべきです。


  5. 国連子どもの権利委員会も、日本政府に対する2010年6月11日第3回最終所見において、高校無償化法等の施行を評価しつつ、一方で、政府の社会支出がOECD諸国の平均より低いこと、近年の経済危機のもとで貧困がすでに増加し、人口の約15%が貧困であり、子どもの福祉および発達のための補助金及び手当がそれに対応していないことを深く懸念するとしています。

    また、国連子どもの権利委員会は、日本の教育システムに対して、非常に厳しい懸念を示しています。

    日本の教育システムがあまりに競争的なため、子どもたちから、遊ぶ時間や、からだを動かす時間や、ゆっくり休む時間を奪い、子どもたちが強いストレスを感じていること、それが子どもたちに発達上のゆがみを与え、子どものからだや精神の健康に悪影響を与えていることが指摘され、適切な処置をとるよう勧告されています。これは、子どもの権利条約の一般原則や規定のうち、特に「子どもの最善の利益」(第3条)、「生存と発達の権利」(第6条)、「子どもの意見の尊重と参加する権利」(第12条)、「教育の目的」(第29条)、「休息、余暇および遊びへの権利」(第31条)に関わるとされています。競争の激しさとともに、カリキュラムや校則に柔軟性がないことが指摘されています。子どもたちが学校の運営にかかわっていないこと、学校で子どもの意見が尊重されていないことは、ここにも関連してきます。

    自殺をする子どもが多いことも、教育システムの生み出すストレスと関係がある のではないか、と指摘されており、防止のための措置をとるように勧告されています。

    また、学校において、体罰といじめがあることについて懸念が示され、体罰といじめをなくすために、包括的な対策をとるように勧告されました。

    こうしたストレスの多い教育環境の影響で、いわゆる不登校の子どもが多いとい うことにも、懸念が示され、適切な対応をとるように勧告されました。

    このような学校における硬直化した競争主義のもと、個人の多様性が十分認められず、学びの場から排除される子どもたちがいます。こうした子どもたちの中には、新たな学びの場を持てないまま不安定な生活状況から抜け出せず、さらに疎外感を抱くという悪循環に陥る子どももいます。これは、子どもたちが直面する貧困問題が経済的困窮への対応のみでは解決できないことを示すものではないでしょうか。

    学校へ通うことのできる経済的基盤を整えるだけではなく、学びの場において、互いに個人の尊厳を認め、社会においても、ひとりひとりの多様な生き方を認め合うことが求められていると考えます。


  6. いま、子どもの直面する貧困の連鎖を絶ち、子どもの健全な成長発達を保障するため、当連合会は、子どもの学びの平等を実質的に保障する総合的な教育福祉の施策の早急な実現を求めるとともに、次のことを提言します。


    • 1)  家庭の経済的格差を解消する諸施策と合わせて、奨学金制度を充実すること。
    • 2)  学校の硬直化した競争主義的、管理主義的な環境が子どもに対し心身の健康を害するストレスを与えている現状を改善し、個人の価値を尊重する福祉の理念を教育内容に積極的に導入するとともに、教育過程に子どもが主体的に参加し、子ども自身が「新しい貧困」の問題の実態を適切に理解し、これを克服するために共に生き、共に育つ豊かな人間関係形成の力を育成することができる学びの環境を創ること。
       国連子どもの権利委員会の前記最終所見においても、学校の硬直化した競争主義が子どもの心身の健康を害していることを指摘されています。
    • 3)  家庭的基盤が弱い、あるいはこれを失った子どもの学ぶ権利を保障するため、里親制度、児童福祉施設、自立援助ホーム、子どものシェルターなどの社会的養護、自立支援の市民活動の充実、拡大のための公的助成を拡充すること。
       とくに、東京の社会福祉法人カリヨン子どもセンター、横浜の特定非営利活動法人子どもセンターてんぽ、愛知の特定非営利活動法人子どもセンター「パオ」、岡山の特定非営利活動法人子どもシェルターモモの4つの団体は、弁護士が子どものパートナーとなり、子ども自身の主体的な自己決定を尊重した社会的養護として、子どもに安心できる居場所(シェルター)を提供し、自立を支援していく新しい活動として注目されています。それは、従来、子どもを単なる保護の対象としてきた児童福祉、社会的養護のあり方に、子どもの権利行使という視点を与えるものと言えます。
       このような子どもの自立支援の市民的な活動は、全国的な広がりの可能性を見せており、これを一層充実、拡大するための公的な助成が求められます。
    • 4)  非行に陥った子どもに対し厳罰主義、隔離的な施設内処遇による抑圧的な傾向を改め、円滑な社会復帰を促進し、自立支援を行う社会資源を拡充すること。
       いま、少年院出院の当事者による少年院からの社会復帰支援のための「セカンドチャンス!」という会を立ち上げる準備中です。わが国でもこのような市民活動ができることは注目すべきであり、公的な助成も必要な分野です。
    • 5)  貧困問題に直面した子どもの権利を守るため、弁護士等による相談、支援活動を拡充すること。    
       これまでも、当連合会所属の各弁護士会は、子どもの人権相談や児童相談所等社会福祉機関との連携により、子どもの権利を守る相談、支援活動を行ってきましたが、さらなる拡充を目指します。

以 上




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