以下の事案をよんで,各自設問を検討してください。
ただし,(1)本日は,平成21年10月22日であるものとします。(2)レポートの提出は求めません。
(事案)
平成21年10月22日,弁護士であるあなたのところに,三の丸株式会社の担当者が訪れ,次のような事情を話し,相談しました。
1 当社は,建築資材の販売等をしている会社であり,株式会社愛弁工務店とは5〜6年のお付き合いになります。契約書は作っていませんが,電話やFAXなどで注文があり,指示された現場に建築資材等商品を納め,請求書を送付します。毎月末日締め,翌月20日支払で,これまでは特にトラブルはありませんでした。
2 折からの建築不況もあってか,特にここ1年は愛弁工務店からの支払いが遅れることが出てきました。しかし,遅れながらもきちんと支払いはありましたし,このような景気で,お互いに苦しいことはわかっていますので,うるさくは言いませんでした。
3 ところが,平成21年8月20日には,7月末締め分の100万円の支払いが全くなく,翌月の9月20日も,8月末締め分150万円の支払がないまま,過ぎてしまいました。さすがに今までこのようなことはなかったので,愛弁工務店の社長である愛弁一男氏に電話し,支払いを催促したところ,「もうすぐ工事が終わる現場があるので,必ず支払うから少し待ってほしい。」と言われ,9月末まで待つことにしました。
また,他の業者などにも聞いてみたところ,あちこちの取引先に対する支払いも遅れているようで,危ないという噂も聞かれました。
4 心配していたとおり10月に入っても支払いはありませんでした。愛弁工務店に何度電話しても社長はいないと言うので,数回会社を訪ねてみましたが,アルバイトの事務員が出て「社長は不在でわからない。」と言うばかりで話になりません。
5 愛弁工務店社屋の土地・建物は社長個人名義になっていますが,愛弁工務店の借入金について取引先銀行の多額の抵当権が設定されており,価値はなさそうです。
また,愛弁工務店が請け負っている工事で比較的大きいものに,名古屋市緑区の名古屋太郎様邸の改修工事があります。昨日,現地を見に行きましたが,現場に立ててあった看板の記載によれば,工期は「自9月1日〜至10月31日」で,ほぼ工事は終わっている状態でした。施主の名古屋太郎さんの奥様が出てこられたため,「愛弁工務店でリフォームをしようと考えているが,こちらのお宅もそうだと聞いて参考に見に来た。」と言って,それとなく聞き出したところ,工事代金は総額1000万円だそうです。工事費は,慣習的に契約時や中間時などに分けて支払われますので,完成時に支払う残代金は3割程度は残っていると思われます。
6 結局,10月20日支払分50万円の支払いもなかったため合計300万円の売掛金が未払いのままです。
当社の売掛金を何とか回収できないでしょうか。
【別紙 担当者が持参した資料】(いずれもPDFファイル)
請求書(控) 土地全部事項証明書 建物全部事項証明書
履歴事項全部証明書(2通)
設問1 三の丸株式会社の売掛金を保全するために,どのような保全申立をすることが考えられますか。
設問2 設問1のような保全申立をすると,どのような法律上の効果を得ることができますか。
設問3 今回の研修の予習として,設問1で検討した保全申立書を起案してみて下さい。なお,研修において申立書の提出は不要です。
※保全申立書の書式は,各種参考書のほか,裁判所のホームページなどにも記載されていますから,参考にして下さい。
設問4 設問3の申立書に添付して提出すべき証拠などの必要書類にはどのようなものがありますか。弁護士としては,【別紙 担当者が持参した資料】以外に,どのような資料を収集し,裁判所に提出する必要がありますか。
設問5 設問1の申立をしたところ,裁判所から,「5日以内に担保として80万円を提供して下さい」と指示がありました。
- ここで裁判所が言う「担保」とは,どのような法的性質のものですか。
- 具体的には,どのような手続をして当該担保を「提供」したら良いですか。
- 依頼者から「この『担保』は,戻ってくるお金ですか。戻ってくるとすれば,どのような手続で戻ってきますか」と聞かれたら,弁護士としてはどのように回答したら良いですか。
設問6 裁判所から設問1で検討した保全命令が発令されました。
- 当該保全命令の効果を実現するために,何らかの手続を採る必要がありますか(保全執行の申立の要否)。
- 本案判決で勝訴判決が確定した後,どのような手続によって権利を実現することができますか。
以上
|