中部弁護士会連合会

中弁連からのお知らせ

日本国憲法の平和主義を堅持する決議・提案理由

  1. 決議冒頭に述べたとおり日本国憲法は、戦争の惨禍を排すべく、国民主権原理を採用するとともに、平和主義の積極展開を原則とすることを確認し、平和主義を具体化するものとして、第9条において、戦争、武力の行使及び武力による威嚇を放棄し、戦力の不保持及び交戦権の否認を定めている。日本国憲法の平和主義は、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しよう」とする決意にささえられている(前文第2段)。

  2. いうまでもなく、日本国憲法は、わが国が、過去の大戦において、アジア諸国民及び日本国民に膨大な犠牲者を出し、言語に絶する惨害をもたらした反省の上に制定され、施行されたものである。

    日本国憲法施行後、57年が経過した。

    この間、朝鮮戦争、ヴェトナム戦争、湾岸戦争等に対する関わりや、沖縄にはいまだ巨大な米軍基地が置かれる等、平和主義を巡る問題が指摘されてきたが、60年近くにわたり、わが国は、武力の行使によって他国の国民を殺害したことのない歴史を刻んできた。わが国近代史において例外的といえるだけでなく、先進国に稀な誇るべき歴史といえる。

    今、わが国の自衛隊は、イラクに展開中の多国籍軍に参加している。

    そもそもイラク戦争が、国連憲章などの国際法に反したものであり、また開戦の理由とされた大量破壊兵器もいまだに発見されていないことは忘れられてはならない。

    イラク情勢は悪化し続け、現在、全土が戦闘状態にある。

    かかる状況の下、武装した自衛隊を派遣し続け、従来、国会答弁でも違憲と言い続けてきた多国籍軍に参加することは、武力の行使を禁止し、交戦権を放棄した憲法第9条に違反する疑いが極めて大きい。

    かかる重大な決断が、国会審議を全く経ることなく決定されたことは、国民主権の原理すら踏みにじるものである。

  3. 憲法第9条は、厳しい議論に晒されてきた。

    とくに憲法第9条と自衛隊及び日米安全保障条約との関係は、国論を二分する議論を提起してきた。

    しかし、憲法第9条が、集団的自衛権を否定していること、専守防衛を旨とし、自衛隊は自衛のための必要最小限度の実力であることは、歴代政権が繰り返し明らかにしてきたところである。

    自衛隊創設時には、「自衛隊の海外出動を為さざることに関する決議」(1954年〈昭和29年〉6月2日)が参議院本会議において、可決されている。

    しかるに、1999年(平成11年)以降、次々と国会で成立した周辺事態法、テロ対策特別措置法、イラク事態特別措置法の立法の積み重ねと、これによる自衛隊のイラク派遣、そしてイラクにおける多国籍軍への参加は、専守防衛の基本方針を逸脱し、日米安全保障条約の枠組みすら踏み越え、軍事的手段によって国際紛争を解決しようとするものである。

    今、日本国憲法の平和主義は危機にあると言わざるを得ない。

  4. 有事法制は、自衛隊による米軍への後方支援を飛躍的に強化するとともに、行政機関をも米軍に対する支援の枠組みに組み込んでいる。有事体制発動の要件たる「武力攻撃予測事態」はあまりにも漠としており、ときの政府の恣意的判断を排除できない。かかる政治判断の下に総理大臣に権力を集中させて、人的・物的資源を軍事目的に動員する体制を敷くことができるものとなっている。安保条約に基づく米軍の活動にはわが国の法的コントロールは及ばないとされており、米軍が先制的攻撃に出たとき、わが国は、同時に武力攻撃事態等とされる可能性を排除できない。

    また、有事法制の一環をなす国民保護法制は、これを必要とする立法事実に乏しいだけでなく、平時から軍事的価値に高度の公共性を認める体制を国内に敷こうとするものであり、戦後わが国の民主的統治機構や社会構造を変容させる危険性がある。政府による啓発が、外国に対する過大な脅威認識を煽るものとなれば、紛争の平和的解決への可能性を自ら塞ぐこととなりかねない。

    われわれが憂慮に耐えないのは、かかる有事法制が、国民的議論がほとんどなされないまま、あまりにも拙速に成立したことである。

    武力攻撃事態法が整備を予定している事態対処法制中、社会秩序の維持に関する法制は、いまだにその骨格すら示されておらず、有事法制が治安立法の強化に発展する可能性を否定できず、平時から軍事目的で基本的人権を制限するものとなる危惧も払拭できない。

  5. われわれ弁護士は、弁護士法により、基本的人権の擁護を使命として負託されている。

    平和こそが、あらゆる基本的人権の基礎であることはいうまでもない。

    戦前、戦争に反対する国民は「非国民」として排除され、熾烈な弾圧にさらされた。司法大臣の監督下、懲戒裁判所の懲戒に服する立場に置かれた弁護士は、治安維持法違反被告事件の弁護活動などを理由に、弁護士資格を剥奪される等の苦難の歴史を強いられた

    司法の独立を規定する日本国憲法下、弁護士法が弁護士自治を保障したのは、基本的人権の擁護を使命とする弁護士の活動に対する権力からの干渉を防ぐための制度的保障にほかならない。

    われわれは、弁護士自治のもと、弁護士の使命を実現すべく、日弁連及び各単位会において、上記諸立法及び自衛隊のイラク派遣に対し、法的問題点を指摘してきた。

  6. 現在、憲法第9条改正を主たる課題として、憲法改正を巡る議論が具体化している。

    憲法の平和主義は、国際紛争の武力による解決を一切排するものである。戦争こそ、最大の人権侵害であることは、改めて言うまでもない。われわれは、基本的人権を擁護すべき使命を課された者として、武力により国際紛争を解決しようとする一切の行為に反対する。

    また、憲法の平和主義は、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼してわれらの安全と生存を保持しよう」とするもので、平和の基盤を諸国民との信頼の上に築こうとするものであり、「全世界の国民がひとしく恐怖と欠乏から免れ平和のうちに生存する権利を有することを確認」している。今日、NGO等による国境を越えた人々の多様な活動は、諸国民の信頼の確立に大きく寄与し、こうした人々の多様な活動なしに平和を語ることができない時代を迎えている。憲法の平和主義の理念は、今こそ活かされなければならない。

    一方で、憎悪と報復の連鎖が世界を覆いつつある21世紀初頭において、われわれは法律家として、日本国憲法の平和主義の理念の一層の定着と推進に努力し、かつ国権の濫用を規制する憲法本来の意義を徹底するため、全力を尽くす決意を新たにし、この決議を行うものである。

以 上




戻る




Copyright 2007 CHUBU Federation of Bar Associations