中部弁護士会連合会

中弁連からのお知らせ

「子どもが学ぶ法の精神」に関する宣言―新しい法教育への挑戦―

1 はじめにー「法の精神」とはー

21世紀に入り、わが国はどのような社会を目指すのでしょうか。異なる価値観や考え方を持つひとりひとりが個人として尊重され、また他人を尊重しながらそれぞれの幸福を追及していける、より住みよい社会を作りたい。そのためには、「法」は不可欠です。

ここに言う「法」とは、決して六法全書に書いてある個々の法律を意味するわけではなく、大切なことは、「法の精神」であり、例えば、自由・平等・平和・正義・公正・責任といったような、人が人を大切にする心、自分をも他人をも尊重する心だと思います。人は、自分がこの世でかけがえのない存在であるという自覚と、自分も個人として尊重されているという自信が持ててこそ、他人もまた同じように大切な存在であることが理解でき、他人の個性も意見も尊重する態度、心の構えが生まれると信じます。子どもたちには「法」を真に身につけた市民になってもらいたいのです。

人は、社会に生きている以上、身の回りに多くの困難な問題が起きますし、多くの「正解のない」問題にぶつかります。そのような時にこそ「法の精神」が問題の解決に役立つはずです。しかし、与えられたルールにただ従うことが遵法精神であると誤解し、自分を大事にすることは身勝手であると考えている人もいれば、逆に、無思慮に権利を振り回して自己主張を繰り返したり、法の抜け穴を探してずるく立ち回ろうとする人もいます。「法は嫌い」と頭から拒絶反応を示す人さえもいます。

このように、法に対する誤解や偏見が氾濫する状況では、問題が公正に解決されることはなく、わが国をより住みよい社会へと変えていくことは困難です。

2 子どもたちを取り巻く環境

ところで、子どもたちが「法の精神」を学ぶ環境は、学校、家庭、地域を含む社会などさまざまです。

しかし、その環境は、決して良好とは言えません。少子化傾向や電子機器の発達による遊びの変化などは、子どもが他の子どもとのコミュニケーションを通して「法の精神」を学ぶ機会を著しく減らしており、家庭における親の過干渉や法に対する誤解は、子どもたちが「法の精神」を学ぶ機会を奪っています。社会環境や家庭環境は悪化しています。これらは、子どもたちが自分で考え判断する力を弱め、ひいては子どもたちの自信を失わせています。そして、学校においても、社会科の授業や総合的な学習の時間などの学校教育の中で法に関することが取り上げられてきましたが、これまで「法的知識を習得させる」ということが中心だったのではないでしょうか。

3 いまこそ「新しい法教育」を

今ほど、子どもたちが、より豊富なコミュニケーションを通じて自分を活かし、他人をも活かす「法の精神」を学び、これを自分たちの生活の中で生かしていく技能と態度とを主体的に身につける機会を必要としているときはありません。このような「新しい法教育」は、最近、子どもたちの特徴として指摘されている「切れやすい」状態から子どもたちを救い、非行防止やいじめの根絶にもつながる根本的な視点を提供するものであると確信します。本来、子どもたちは自らの成長していく力をもっています。私たちは、法にかかわる専門家として、教育関係者をはじめ皆さんと子どものための新しい法教育のあり方を模索・実践し、子どもたちが「法の精神」を自ら学ぶことを支援していくべきだと考えます。

4 取り組みは始まっています

ところで、当弁護士会連合会管内における法教育の実践をみますと、名古屋弁護士会では、平成5年から、西三河支部管内において「中学校の弁護士社会科一日教室」が実施されていますし、平成11年から、名古屋市教育委員会・名古屋市小中学校校長会の協力を得て、全国に先駆け、いくつもの中学校で複数の弁護士がチームになって授業を行ってきました。その授業では、例えば、死刑問題や少年事件における加害者情報の公開の限度など「正解のない」問題をテーマとしたディベートの手法なども積極的に活用しています。これは、相手を言い負かす技術の修得を目的とするものではなく、自分の意見をきちんと根拠を示して説明するとともに、相手の意見も感情的にならずに聞くという、基本的なコミュニケーションの姿勢を子どもたちが身につけるためのものです。他にも、男女の性による差別の問題を考える寸劇、表現の自由とプライバシーに関わる寸劇なども行ってきました。このような教育委員会・校長会と弁護士会との協力関係は、各所で注目を浴び高く評価されています。また、平成15年7月、名古屋弁護士会による中高生を対象とする夏期の校外課外授業「サマースクール」の新たな試みも高い人気を呼びました。福井弁護士会においても、平成14年から、一方的な法律知識の講義にとどまらない出張授業・模擬授業や、模擬裁判指導等の積極的な活動が鋭意進められています。これらは、いずれも、子どもたちが「法の精神」を学ぶための挑戦の始まりでした。

5 私たちは宣言します

私たち中部弁護士会連合会は、わが国が21世紀の理想的な社会に発展するために、教育委員会、教育者、教育学者、日本弁護士連合会の設置した専門委員会、全国の各単位弁護士会、消費生活センター、裁判所、民間団体などの皆さんと連携し、


    新しい法教育の実践。
    実践例の収集と紹介。
    学校教育におけるカリキュラムの研究・教材の開発。
    学習の手段効果の検証。

などの諸活動を通して、子どもたちが「法の精神」を自ら学ぶことを支援し、新しい法教育への挑戦を続けていくことを宣言します。


 以上、決議する。 



2003(平成15)年10月3日
中部弁護士会連合会



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