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入管法改正案の再度の提出に反対する理事長声明

政府は、今通常国会に出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という)の改正法案(以下「再提出法案」という)を提出することを予定しており、報道等によれば、その内容は、令和3年の通常国会で廃案となった出入国管理及び難民認定法の改正法案(以下「旧法案」という)の骨格を維持しているとのことである。


しかしながら、旧法案は、日本政府が国連自由権規約委員会から勧告された[i]入管収容施設における収容期間の上限設定や、収容に関する効果的な司法審査の導入は含まれておらず、長期収容問題を解決することが期待できない一方、@退去強制対象者の「裁判を受ける権利」を侵害するおそれのある退去命令制度及び退去命令拒否罪等を創設し、A「ノン・ルフールマンの原則」に反する、3回目以降の難民申請者に対する送還停止効の例外を創設し、さらに、B支援者にその立場と相反する役割を強いる「収容に代わる監理措置」を導入し、C不法就労罪及び仮放免逃亡罪等の罰則を創設するなど、多くの深刻な問題点を含んでいた。そこで、当連合会は特に上記@ABCの問題点を指摘した上で旧法案について反対意見を表明したところである(令和3年3月4日付け「退去命令拒否罪等を創設する入管法改正案に反対する理事長声明」)。


また、当連合会の管内にある名古屋出入国在留管理局では、令和3年3月、6か月間以上に亘り収容されていたスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんが死亡した事件が発生している。事件の真相は未だ解明されていないものの、この事件は、被収容者に対する適切な医療措置が不在であっただけではなく、長期収容が抱える前述の問題点が顕在化したことによって発生した悲劇であると評価せざるを得ない。

報道等によれば、再提出法案は、収容の必要性を3か月ごとに見直す規定が含まれているとされているが、現状通り、収容を原則とし、収容を解くかどうかの判断を行政に委ね、司法審査を導入しないのであれば、現状の問題点は全く解消されていないことになる。再提出法案は、この点に関する改善がなされていない点で今後も長期収容を発生させるおそれを内包している。


さらに、再提出法案は難民認定制度の改善に資するものではない。

すなわち、難民認定制度についても、依然として難民認定率が著しく低く、難民認定基準が厳しい状況は改善されておらず、国際社会からも痛烈な批判を受けている。その背景には、日本政府が、条約難民の要件の一つである「迫害を受けるおそれ」について、迫害を受ける人が迫害主体から個別的に把握されていることを要する(個別的把握説)という限定的な解釈を続けていることがある。日本政府がこのように限定的な解釈を続ければ、保護されるべき者が保護されない結果を生むことは明らかであり、解釈や運用状況をまずは改善しなければならない。

にもかかわらず、再提出法案は上記の解釈や運用状況を変更させるものではなく、むしろ、3回目以降の難民申請者に対し送還停止効を認めないものである(上記A)。よって、再提出法案は迫害を受けるおそれのある者を送還し、その生命身体を脅かす可能性を高めることになりかねないものであり、難民認定制度の改善に資するものではない。


なお、政府は、再提出法案において、「準難民」制度を創設し、ウクライナ等の紛争地域からの避難者を受け入れられるようにすると報じられているが、紛争地域からの避難者を難民条約上の難民とするかどうかは解釈の問題であり、難民条約の解釈に関する国際的なガイドラインに従えば、避難者を保護することは十分に可能である。ましてや、紛争地域からの避難者受け入れは、上記の通り、難民申請者に対し送還停止効の例外を設けて手続中の送還を許す理由とはならない。


当連合会が拠点を置く中部地域には、多くの外国人住民が居住しており、各地方自治体が多文化共生社会の推進を図っている。また、多くの住民や弁護士が外国人の人権保障に向けた取組に参画しており、外国人やその家族の人権を脅かす内容を含む法改正を看過することはできない。


当連合会は、旧法案の骨格を維持した再提出法案の提出に反対するとともに、前掲令和3年3月4日付理事長声明で求めたとおり、外国人の長期収容問題は、効果的な司法審査の導入や収容期間の上限設定等、人権保障にかなった制度の見直しにより解決することを求めるものである。



以上





                                令和5年3月6日

中部弁護士会連合会    
    理事長  坂 井 美紀夫


[i]「自由権規約委員会第7回日本政府定期報告書に対する総括所見32項・33項

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