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日本国憲法施行70年にあたり、改めて憲法の意義を確認し、
立憲主義を堅持するとともに、国民主権と基本的人権の保障
の徹底及び恒久平和の実現のために一層努力する決議

日本国憲法は、本年5月3日で施行70周年を迎えた。

日本国憲法は、個人の尊重を人間社会において最も大切な価値であると位置づけ、憲法によって国家権力を拘束するという近代立憲主義に立脚している。そして、詳細な人権プログラムを定め、侵すことができない永久の権利として全ての国民に基本的人権を保障し、国民主権と議会制民主主義、権力の分立を統治の基本原理とするとともに、国際紛争の解決の手段としての戦争、並びに武力の行使及び威嚇を永久に放棄し、一切の戦力の不保持を命じ交戦権を否認するという徹底した恒久平和主義を採用している。


日本国憲法のもとで、戦後、日本の社会は大きく変革された。明治憲法下で統治権を総覧する天皇の臣民に過ぎなかった国民は、日本国憲法のもとでは、主権者として政治を動かしている。様々な制約を残しつつも、国民には市民的政治的自由が保障され、国民皆保険制度をはじめとする社会保障が整備され、国民生活の向上が図られた。日本軍は解体され、徹底した平和主義を掲げた日本は国際社会に迎え入れられた。特筆すべきは、日本が戦後70年以上、他国と一度も戦火を交えず、戦闘により他国の人々の命を奪ったことは一度もないという事実である。このような歴史的経過のもと、日本国憲法の基本原理は、戦後の経済的繁栄と国家の民主的で平和的な発展の基礎となった。


しかし、憲法制定後70年が経過した今日においても、なお、日本国憲法の基本原理が徹底されているとは言えず、近時、むしろ、一部について後退させようとする動きも懸念されるところである。いつまでもこの状態を放置することはできない。 国民主権のもとで全ての有権者に「一人一票」の平等な選挙権が保障されなければならないにもかかわらず、国政選挙での「一票の格差」は十分な是正がなされていない。

また、世界有数の経済大国と言われながら、経済格差が拡大して貧困に陥る人々が生じていることは看過できない。教育に対する公的支出が抑制される中で多くの若者が貧困のため大学進学を諦めざるを得ず、全ての国民が健康で文化的な生活を送ることができ、能力に応じ等しく教育を受ける権利を享受するという憲法25条、26条の理念がないがしろにされている実態も看過できない。


さらに、今日、最も重大な岐路に立たされているのは、恒久平和主義の原理である。2015年6月に制定された安保法制は、従来の憲法解釈を覆して集団的自衛権の行使を認めるとともに、重要影響事態における自衛隊の米軍等に対する後方支援活動の範囲を拡大した。自衛隊が他国間の武力紛争に当事者として参加し、わが国が武力紛争に巻き込まれる可能性が高まっている。


今世紀になって、日本国憲法の改正を図る動きが活発となっている。2010年5月から憲法改正国民投票法が施行された。2012年12月の第二次安倍政権発足後、憲法改正の動きは加速化し、本年5月3日、安倍首相は、2020年までに憲法9条に自衛隊を明記する等の憲法改正の実現を目指すことを表明した。

憲法改正をめぐる論議においては、立憲主義の理念が堅持され、国民主権、基本的人権の尊重、恒久平和主義など日本国憲法の基本原理が尊重されるように、弁護士会は、国民に必要な情報を提供し、国会での審議に国民の議論が反映されたものとなるよう積極的に取組む必要がある。


日弁連は、第1回定期総会(1950年5月12日)において、「日本国憲法は世界に率先して戦争を放棄した。われらはこの崇高な精神に徹底して、地上から戦争の害悪を根絶し、各個人が人種国籍を超越し自由平等で且つ欠乏と恐怖のない平和な世界の実現を期する」と高らかに宣言した。

当連合会は、日本国憲法施行70年にあたり、改めて憲法の意義を確認し、立憲主義を堅持するとともに、国民主権と基本的人権の保障の徹底、恒久平和の実現のために一層努力することを決議する。


2017年(平成29年)10月20日
中部弁護士会連合会




提 案 理 由


第1 日本国憲法制定の意義と基本原理について


1 「個人の尊重」原理と立憲主義

日本国憲法は、「個人の尊重」と「法の支配」を中核とする立憲主義に立脚する。

日本国憲法13条は「すべて国民は個人として尊重される。生命、自由および幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で最大の尊重を必要とする」と定め、社会の価値の根源が個人にあるとし、何にも勝って「個人を尊重」するとしている。

「法の支配」は、専断的な国家権力の支配(人による支配)を排し、権力を法で拘束することによって国民の基本的人権を擁護することを目的とする。日本国憲法は、基本的人権の永久・不可侵性を確認するとともに(憲法97条)、憲法の最高法規性を定め(同法98条)、公務員に憲法尊重擁護義務を課し(同法99条)、裁判所に違憲立法審査権を付与していること(同法81条)から、日本国憲法が「法の支配」に立脚していることは明らかである。


2 日本国憲法の基本原理とその先進的意義

日本国憲法は、国民主権、基本的人権の尊重、徹底した恒久平和主義を基本原理としている。

日本国憲法は、前文において「主権が国民に存する」ことを宣言した上で、第1条に国民主権を明記した。日本国憲法は、国民主権原理に基づき、国民の参政権を保障し、その代表機関である国会を国権の最高機関と位置づける代表民主制と権力の分立を統治の基本原則としている。

そして、日本国憲法は、「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる」(同法11条)と基本的人権が不可侵であることを明確にした上で、詳細な人権プログラムを規定した(同法13条から40条)。特に、思想・良心の自由等の自由権とともに、生存権、労働基本権、教育を受ける権利等の社会権、「恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利」(平和的生存権)を基本的人権として保障したところに特徴がある。

さらに、日本国憲法は、前文で「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し」、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼してわれらの安全と生存を保持」すると述べた上で、9条1項で「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と規定し、同条2項で戦力の不保持と交戦権の否認を定め、徹底した恒久平和主義を採用した。日本国憲法の恒久平和主義は、世界の憲法史の画期をなす比類のないものである。


第2 日本国憲法が果たした役割について

1 「個人の尊重」に立脚した基本的人権、国民主権と代表民主制、恒久平和主義を基本原理とする日本国憲法のもとで、戦後、日本の社会は根本的に変革された。

(1) 明治憲法下では天皇が統治権を総覧し国民は臣民としてその統治の対象に過ぎなかったが、日本国憲法下では、国民主権のもとで、男女を問わず全ての成年者に普通選挙権が保障され、国民が主権者として国政と地方政治を動かしている。2015年6月の公職選挙法改正により選挙権年齢が20歳から18歳に引き下げられたことは、若者の政治参加を促進し国民主権の基盤を広げる上で重要な意義がある。

(2) 基本的人権を保障した日本国憲法のもとで、様々な制約は残されているものの、国民には思想の自由、学問の自由、信教の自由といった市民的政治的自由が広く保障されることになった。憲法25条に基づき国民皆保険制度の確立等に代表される社会保障制度の整備が進められ、憲法26条による教育を受ける権利の保障と義務教育の無償化は国民の教育水準の向上をもたらした。

(3) 恒久平和主義を採用した日本国憲法のもとで、日本は再生し、国際社会に迎え入れられた。戦後、我が国が、他国と戦火を交えることなく、戦闘行動によって他国の国民の命を奪うこともないまま平和国家として72年間歩み続けることができたのは、憲法9条が軍事力に対する立憲主義的コントロールを及ぼしてきたことが大きく寄与している。

(4) このように、戦後の我が国の経済的発展と国家の民主的で平和的な発展のために、国民主権、基本的人権保障、恒久平和主義の基本原理に立った日本国憲法は大きな役割を果たした。

2 日本国憲法が戦後の日本社会の羅針盤として機能し、その基本原理が国家、社会に一定程度定着することができたのは国民の不断の努力によるものであるが、その中で弁護士と弁護士会が果たした役割は決して小さなものではない。1949年に施行された弁護士法が基本的人権の擁護と社会正義の実現を弁護士の使命と定め、弁護士自治が保障されるもとで、弁護士が、司法による人権の救済を求める訴訟等において成果を挙げ、弁護士会が違憲立法に反対する国民的運動に加わる等、日本国憲法の基本原理の実現のために国民とともに努力してきたことは当連合会の誇りとするところである。


第3 日本国憲法の基本原理が社会の隅々に行き渡っているとはいえないこと及び基本原理を後退させる動きについて

日本国憲法の基本原理は日本社会の根本的な変革をもたらしたが、それが日本社会の隅々に行き渡っているとは到底言えず、未だ十分実現されていない問題があり、近時はむしろ基本原理を後退させる動きも起きている。

1 国民主権原理の関係では、いわゆる「一票の格差」の問題がある。国民主権のもとで全ての有権者に「一人一票」の平等な選挙権が保障されなければならないにもかかわらず、十分な是正がなされていない。

2 基本的人権保障の関係では、2013年12月に制定された特定秘密保護法(2014年12月施行)は、国民の知る権利、メディアの取材の自由を著しく制約するものであり、真実を報道しようとするメディアの萎縮をもたらし、国民の国政監視機能を弱めるおそれがある。また、2017年6月15日に、いわゆる共謀罪の創設を含む組織的犯罪処罰法が改正されたが、同法は、監視社会化を招き、市民の人権や自由を広く侵害するおそれが強いと言わざるを得ない。対象とされる「組織的犯罪集団」がテロ組織や暴力団等に限定されず、市民団体、企業等も対象となり、市民の活動や企業活動も捜査の対象となり得るという懸念も払拭されていない。

また、日本は、国内総生産約538兆円の世界第3位の経済力を有する経済大国であるが、経済格差が拡大している。日本の社会保障の中で教育費に対する公的支出が少ないことは、社会的に問題とされている。OECDの報告書(2017年9月12日公表)によれば、日本は教育機関への公的支出がGDPに占める割合はOECD加盟国(35か国)の中で最低である。全ての国民が健康で文化的な生活を送ることができ、能力に応じ等しく教育を受ける権利を享受するという憲法の理念が蔑ろにされている。

3 そして、今日、最も重大な岐路に立たされているのは、恒久平和主義の原理である。

特に2001年の同時多発テロ後、専守防衛を旨としてきた自衛隊が大きく変容している。日本政府は、中東地域での紛争地域であるアフガニスタンやイラクに自衛隊を平和維持活動(PKO)として派遣した。2006年には防衛庁が防衛省になり、「国際社会の平和及び安全の維持に資する活動」が自衛隊の本来的任務とされた。

2015年9月19日に制定された安保法制(平和安全法制整備法及び国際平和支援法・2016年3月29日施行)は、憲法9条の法規範としての現実的な機能を著しく損なわせ、日本国憲法の先駆的な恒久平和主義を後退させるものである。自衛隊法が改定され、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」(存立危機事態)において、自衛隊法76条の防衛出動として武力の行使ができるものとされた。これは、歴代の政府が一貫して憲法9条のもとでは許されないとしてきた集団的自衛権の行使を認めるものであり、日本が他国間の戦争において武力行使できる道を開くものである。また、重要影響事態法は、武力を行使する他国の軍隊等に対し、地理的限定なく、随時、物品の提供や輸送業務等の兵站活動を広く認めた。同法は、いわゆる「非戦闘地域」にとどまらず「現に戦闘行為が行われている現場」以外の場所であれば兵站活動ができるとしたため、自衛隊の活動が他国軍隊の武力行使と一体化する危険は免れず、自衛隊も相手国からの攻撃の対象となって、戦闘行為に発展する危険性の極めて高いものである。

さらに、国際平和協力法では、これまでの国連が統括する平和維持活動のほかに、国連が統括しない有志連合等による「国際連携平和安全活動」への参加を認めた上、これまでは禁止されていた「駆け付け警護」と「安全確保活動」を新たな任務として認め、それらに伴う任務遂行のための武器使用を可能とした。この新任務も自衛隊の活動が他国軍隊の武力行使と一体化する危険は免れず、自衛隊も相手国からの攻撃の対象となって、戦闘行為に発展する危険性の極めて高いものである。

4 われわれは、このような憲法の危機状態を直視し、憲法の基本原理が社会の隅々まで行き渡るように活動するとともに、これを後退させる動きに対しては警鐘を鳴らして是正させるよう努めなければならない。


第4 憲法改正問題への弁護士会の取り組みについて

1 憲法改正論議は、1990年代から徐々に活発化する様相を示し、1994年11月3日には読売新聞社が憲法改正試案を発表し、2000年1月には衆議院と参議院に憲法調査会が設置された。

2 2012年12月に安倍第二次内閣が発足したことを契機として、憲法改正論議は加速化した。自民党は、2012年4月に公表した憲法改正草案を国民の間に普及する活動を繰り広げるとともに、96条の憲法改正発議要件緩和、緊急事態条項等の憲法改正論に言及してきた。安倍首相は、2017年5月3日、読売新聞の単独インタビューの中で「憲法9条の改正に真正面から取り組む」とした上で、「憲法9条1項、2項を存置した上で、自衛隊の意義と、役割に関する規定を明記し自衛隊を合憲化する」という新たな憲法9条改憲案を示し、高等教育の無償化、緊急事態条項を含めた憲法改正案を自民党内で早急に取り纏めた上で国会に提出し、東京オリンピックが行われる2020年までに改正憲法を公布、施行するという憲法改正のスケジュールを示した。 日本国憲法施行後初めて、憲法改正案が国会で審議される現実的な可能性が生まれている。

3 弁護士会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする在野の法律家の団体の立場から憲法改正問題に取り組むことを国民から期待されている。

日弁連は、これまでにも人権擁護大会の決議等で憲法改正問題についての提言、意見表明を行って来た。その主なものは次の通りである。

  • @「立憲主義の堅持と日本国憲法の基本原理の尊重を求める宣言」(2005年11月11日人権擁護大会)
  • A「平和的生存権および日本国憲法9条の今日的意義を確認する宣言」(2008年10月3日人権擁護大会)
  • B「恒久平和主義、基本的人権の意義を確認し、『国防軍』の創設に反対する決議」(2013年10月4日人権擁護大会)
  • C「立憲主義の見地から憲法改正発議要件の緩和に反対する決議」(同人権擁護大会)

4 憲法改正が現実味を帯びてきた今、憲法改正をめぐる論議において、立憲主義の理念が堅持され、国民主権、基本的人権の尊重、恒久平和主義という日本国憲法の基本原理が尊重されるように、弁護士会は、国民に必要な情報を提供し、国会での審議に国民の議論が反映されたものとなるよう積極的に取組む必要がある。


第5 結語について

日弁連は、第1回定期総会(1950年5月12日)において、「日本国憲法は世界に率先して戦争を放棄した。われらはこの崇高な精神に徹底して、地上から戦争の害悪を根絶し、各個人が人種国籍を超越し自由平等で且つ欠乏と恐怖のない平和な世界の実現を期する」と高らかに宣言した。

当連合会は、日本国憲法施行70年にあたり、改めて憲法の意義を確認し、立憲主義を堅持するとともに、国民主権と基本的人権の保障の徹底及び恒久平和の実現のために一層努力する。

以上

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