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罪に問われた人の社会復帰支援に向けて、
司法・福祉・行刑の連続性のある連携を目指す宣言

近年、刑法犯の認知件数、初犯者や初入者は減少傾向にある中、再犯者による犯罪の割合、受刑者中の再入所者の割合は増加傾向にある。その再入所者の中には、精神障がい、知的障がいなどや高齢などのために福祉的支援が必要な者が一定程度いることも各種調査により指摘されている。釈放後、無職であった者の再犯率が有職者に比して高いことも調査結果に示されている。

単なる応報刑、厳罰化では再犯防止、再入所防止に限界があることは明らかであり、司法と福祉のあり方、司法と行刑のあり方に大きな変革が求められている。それは刑事司法、福祉、行刑に携わる者が、犯罪被害者に対し、社会に対し負っている責任とも言える。

すでに触法障がい者・高齢者に対する出口支援・入口支援の取り組みが始められ、刑務所内での処遇の改善も図られつつあり、国も「再犯防止に向けた総合対策」を策定し、数値目標を掲げて具体的に取り組んではいる。

しかし、これらの取り組みは始まったばかりであり、その必要性について刑事司法、福祉、行刑に携わるすべての者の共通認識になっているとまでは言えず、実際、支援が必要な者に対し、必要な支援が行き届いているとは言いがたい状況にある。

とりわけ、「出口」「入口」と、その「中間」ともいえる刑務所受刑中の処遇との連続性を欠いていること、それぞれを担う機関が分断されており連携を欠いていることによる問題は大きい。

「入口」「中間」「出口」の一貫した社会復帰支援が再犯防止、再入所防止に不可欠であり、関係各機関の連携を目指すべきある。

そこで、中部弁護士会連合会は、以下のとおり宣言する。

  • 「入口・中間・出口」のそれぞれの段階で、関係する司法(検察庁、裁判所、弁護士・弁護士会)、福祉機関(厚生労働省、社会福祉士等)、行刑及びこれに関わる行政機関(法務省、刑務所、保護観察所、地方更生保護委員会等)、組織(福祉施設、NPO、民間企業、医療機関等)が「罪に問われた人の社会復帰支援」の視点を持ち、それぞれの役割を果たすと共に、これらが、連携して、連続した取り組みを強めることを求める。
  • 弁護士、弁護士会は、「罪に問われた人の社会復帰支援」の視点から、「入口」にあたる刑事事件への取り組みを強めると共に、「中間」「出口」においても、社会復帰支援の取り組みや、運用改善、制度改革に向けた取り組みを強める。


2015(平成27)年10月30日
中部弁護士会連合会





提 案 理 由


 第1 総論

1 はじめに

罪に問われた人の社会復帰を支援する取り組みの重要性への認識が広まりつつある。基本的人権の擁護と社会正義の実現を基本的使命とし、司法の一端を担う弁護士、弁護士会として、この課題の重要性に鑑み、この宣言を提案する。


2 犯罪傾向と再犯防止施策の重要性

「犯罪白書」、「矯正の現状」等の資料によれば、犯罪件数は認知件数、検挙件数共に減少傾向をたどり、刑務所の被収容者(受刑者)数も減少傾向にある。

しかしながら、再犯者、刑務所への再入所者数の割合は増加傾向にある。

われわれ弁護士は、日常の刑事事件においても、仕事に就くことができないために生活苦、生活不安定から再犯に至る、高齢のために居場所がなく再犯に至る、知的障がい、精神障がいのために再犯に至る被告人の姿を少なからず見ている。

政府は、2012(平成24)年、「再犯防止に向けた総合対策」を決定し、「刑務所出所後2年以内に再び刑務所に入所する者等の割合を今後10年間で20%以上削減する」ことを数値目標として掲げた。

今や、再犯防止は、現在のわが国における刑事司法、行刑の中での最重要課題の一つとなっている。

そして、再犯防止のためには、罪に問われた人の責任を追及し、反省を促すことのみで足りるのではなく、これらの人の社会復帰を支援する取り組みを画期的に強めることが求められている。


(1) 関わる機関と役割

人が「罪に問われる」場合、これに関わる機関とその役割の概要は以下のとおりである。

  • @ 警察;第一次的捜査機関であり、捜査を遂げて犯罪の嫌疑が認められる場合は、検察庁に送致する。
  • A 検察庁(検察官);第二次的捜査機関であり訴追機関である。警察から送致された事件について捜査を遂げ、起訴処分、不起訴処分を決定する。
  • B 裁判所(裁判官);検察官からの起訴を受けて、審理を遂げ、無罪有罪の判定をし、有罪と判断した被告人には刑罰を決定する。懲役刑を言い渡す場合、執行猶予を付すか否かを決定する。この場合、主たる量刑要素は、罪に対する応報の観点から考慮されているのが現行実務の大勢である。
  • C 刑務所;いわゆる実刑判決を受けた者を刑期の間収容する。その間、刑務作業、改善指導、教科指導を内容とする処遇を実施する。  地方更生保護委員会;仮釈放を許可するか否かを審査、決定する(更生保護法16条)。  検察官;刑の執行停止を指揮する(刑事訴訟法482条)。
  • D 保護観察所;裁判所の執行猶予判決において、保護観察が付されたもの、刑務所から仮釈放されたものに対する保護観察を司る。満期出所者に対しても緊急保護の手続がある。

以上が主要な機関であり、医療、福祉、行政などとの関わりはほとんどなかった。


(2) 問題点と課題

上記の機関は、それぞれの固有の役割を果たしてきたが、「罪に問われた人の社会復帰支援」という観点から見たとき、二つの側面から問題点が指摘される。

  • @ それぞれの機関が「罪に問われた人の社会復帰支援」という役割を認識して十分な取り組みをなしえていたかという側面である。
     例えば、検察庁(検察官)は、起訴すべきか否か、すなわち、刑罰権行使を求めるか否かの判断の中で、被疑者の社会復帰を如何に支援し、それによって再犯を防止するかという要素を十分に考慮してきたのかどうか。
     また、裁判所は、いわゆる量刑判断の中で、社会復帰に関わる量刑要素をどこまで考慮してきたのか。さらに、刑務所は、出所時を見据えてその社会復帰のためにどれだけの役割を果たしてきたのか。
     それぞれの役割を「罪に問われた人の社会復帰支援」という観点から見直すことが求められている。
  • A もう一つは、これらの機関が「罪に問われた人の社会復帰支援」のために、連携し、連続した取り組みを行ってきたかどうかという側面である。
     それぞれの機関に固有の役割があることを前提として、(警察、検察庁において)捜査され、(裁判所において)審理され、(刑務所において)処遇されるのは、「その人」である。その「罪に問われた人」が社会において居場所を見いだし、社会復帰し、再犯に至らないためには一貫した支援が必要である。その観点から、それぞれの機関の「連携、連続」が求められている。
    この点が、今回の宣言の大きなポイントである。

(3) 医療、福祉、行政との幅広い連携

以上のような観点から見たとき、従来、(広い意味での)刑事司法とは関係が疎遠であった医療、福祉、行政の幅広い連携も求められている。

例えば、就労支援におけるハローワーク等との連携、出所後の医療、福祉機関の受け入れ態勢等がなければ、社会復帰は困難であろう。


(4) 民間企業、NPO等との連携

就労支援のためには民間企業の理解も必要である。社会の中で行き場を失った、あるいは、失いかけている人々を支援する活動を行っているNPOとの連携も必要だろう。


(5) 弁護士、弁護士会

翻って考えると、弁護士、弁護士会は「罪に問われた人の社会復帰支援」をどこまでやれてきただろうか。

弁護人は、「無辜を処罰させない」ことを最大の使命として活動してきた。そのことの重要性は改めて繰り返すまでもない。その一方で、起訴猶予にするため、執行猶予判決を勝ち取るため、環境整備に努める取り組みも進めてきた。

しかし、従来型の弁護活動は、刑事裁判で終了し、例えば、その後の受刑についての関わりは、一部において精力的な取り組みがなされている以外には、ほとんどなされていなかった。

弁護士会も、刑事司法(捜査から刑事裁判まで)の改革の努力を続けてきた。

しかし、その後の「社会復帰支援」については、日弁連刑事拘禁制度改革実現本部が担い、これに対応する各単位会の刑事弁護委員会などで行われてきたが、弁護士会全体の課題として位置づけるには至っていなかった。

この宣言は、このような到達点に立って、個々の弁護士活動においても、弁護士会の活動においても、「罪に問われた人の社会復帰支援」を視点として取り組みを全面的に強める決意と共になされるものである。



 第2 各段階における支援について

1 「入口支援」の取り組みとその強化のために

(1) 刑事施設への収容は、それまで築いてきた社会との関わりを断ち切るだけでなく、空白期間を作ることで出所後の就労が困難となるなどの弊害を生じさせる。その結果、罪に問われた人の社会復帰は困難となり、再犯リスクを高める場合が少なくない。このことは、自立生活が困難な高齢者、障がい者の場合に特に当てはまる。応報刑、特別予防の考えを単純に当てはめても再犯防止の効果は得られないとの認識は広まり始め、これらの人を刑事施設へ収容させないための入口支援の取り組みが各地で開始されている。

(2) 出口支援を目的として設置された地域生活定着支援センターは、入口段階でも役割を発揮し始め、弁護人や他の福祉機関との連携による更生支援計画書の立案と刑事裁判への反映がなされるようになっている。その前提として、被疑者に障がいがある事実を早期に発見する必要がある。そこで、その疑いがある場合に弁護人指名通知に付記する運用や、接見時に障がいを見逃さないための弁護士会による研修、弁護士会と福祉専門職との連携による接見同行等の取り組みが行われている。検察庁も、更生緊急保護事前調整モデル、社会福祉士の採用等により社会内処遇の可能性を検討するようになっている。

(3) しかし、これらは、いずれも一部の地域での取り組みに止まり、弁護士内においても周知されているとは言い難い状態にある。

今回の中部弁護士会連合会定期弁護士大会シンポジウムでは、各地の取り組みを共有し、その必要性、重要性についての共通認識を形成することを一つの課題としている。このシンポジウム及び大会を期に、「入口」(=検挙から刑の確定まで)における弁護士、弁護士会の取り組みを飛躍的に強めることとしたい。弁護士、弁護士会は、罪に問われた人の権利擁護と社会正義の実現を担う責任ある立場にあることを自覚し、担当事件において充実した弁護活動を行うとともに、新たな社会資源の発掘や、福祉、医療との連携関係の強化等、その活動を一層強化しなければならない。

(4) また、入口支援の重要性は、刑事施設への収容回避だけにあるわけではない。入口支援は、罪に問われた人のその後の社会生活に役立たなければ意味がない。

起訴猶予、執行猶予となった場合には、それまでに収集した情報や支援計画が支援の現場で役立つよう、支援者に対する情報提供やフォローアップがされなければならない。

実刑判決が避けられない場合にも、入口段階から支援体制構築に着手することで、これを中間・出口段階での支援に結びつけることができる。したがって、入口支援は、実刑判決回避や減刑のみを目的とするものであってはならない。入口支援に関与した機関は、罪に問われた人に対する支援が連続したものとなるよう、中間段階である刑事施設に必要な情報を提供するとともに、出口支援予定者とも連携し、社会復帰後の支援にも責任を持たなければならない。


2 「中間支援」の改善、改革

(1) 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下、「刑事被収容者処遇法」という)30条(受刑者の処遇の原則)は、「受刑者の処遇は、その者の資質及び環境に応じ、その自覚に訴え、改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成を図ることを旨として行うものとする。」と定めている。

この原則を「罪に問われた人の社会復帰支援」のために実効化することが求められている。そのためには、以下のような改善、改革が必要である。

(2) 処遇要領の策定と実施の改善

刑事被収容者処遇法84条2項、刑事施設及び被収容者の処遇に関する規則(以下「被収容者処遇規則」という)は、刑務所入所時に「処遇要領」を定めるものとしている。

処遇要領の策定にあたって、関係者からの情報提供、意見を反映できるシステムを構築する。

この処遇要領は、「入口」からの情報を引き継ぎ、「出口」を見すえて、刑期の間一貫して実施し、必要に応じて見直すことがきめ細かになされなければならない。この過程においても、第三者からの情報提供、意見聴取のシステムを策定するべきである。

(3) 刑務作業の改善

上記の処遇計画の中でも、再犯防止にとって最も重要な鍵となるのが、就労への結びつき、就労の継続である。

しかし、現在の刑務作業は、社会復帰後の職業スキルに必ずしも結びついておらず、就労へ結びつけ、就労の継続を支援する体制も構築されているとはいえない。

入口支援での情報も加味し、できるだけ受刑者の意思、能力に沿った就労支援を行うためには外部委託、外部通勤等、社会との連携を強化する必要があり、出口支援でもそれらの成果に従った就労への結びつき、就労の継続への支援が図られる必要がある。

また、「出所後の生活資金の確保」という目的のためには、現在の月額平均4千数百円、出所時所持金5万円以下が大半という状態を改善する必要があり、作業報奨金の抜本的増額が必要である。

(4) 職業訓練、資格取得の強化

職業訓練と資格取得は、刑事被収容者処遇法制定後、取り組みが強められているが、対象となる訓練、資格が限定されている、社会復帰に真に必要な科目が少ない、職業訓練を受け、資格取得できる人数が少ないなどの問題が指摘される。これら問題点に対する抜本的強化が必要である。

また、例えば、社会に出て仕事に就くには、パソコンを使えること(ワード、エクセルが使えること)、自動車運転免許を持つことなどは、全員を対象にして実施すべきである。この観点からは、受刑者の学歴が一般社会に比して著しく低い現状に鑑み、高卒資格を取得できる機会を大いに広げることが求められていると言える。

(5) 外部交通の改善、開放的処遇の活用

釈放後の社会復帰後を考えたとき、受刑期間中においても、社会とのつながりを欠かさないことが必要である。刑事被収容者処遇法110条も、「適正な外部交通が受刑者の改善更生及び円滑な社会復帰に資するものであることに留意しなければならない。」と定めている。

受刑者の社会復帰支援に当たる弁護士、福祉関係者については、受刑者とのコミュニケーションが円滑にできるように、面会(法111条、112条)、信書の発受(法126条以下)について、より柔軟な運用が図られる必要がある。

また、刑事被収容者処遇法により法定された、開放的処遇もほとんど実施されていない。就労予定先への職場体験、福祉施設への体験入所や、外部職業訓練機関や教育機関での受講等が始められて良いであろう。

(6) 仮釈放の運用改善

現在、概ね半数弱の受刑者が仮釈放によって社会復帰し、その平均刑期執行率は7から9割である。

上記のような社会との連携強化が図られ、受け入れ態勢が整えられるならば、仮釈放の人数を増加させ、執行率も低下させることが可能となる。

このようにして受刑者数を減少させれば、受刑者に対するきめ細かな処遇も可能となるという好循環を図ることができる。

(7) 執行停止の運用改善

受刑者の健康状態や年齢によっては、治療を優先させたり、介護や障がい者福祉を優先させる必要がある場合もある。

また、処遇計画上、社会内での処遇が適当と考えられる場合も出てこよう。

刑の執行停止は、現状ではほとんど実施されていない状況であるが、受刑者の処遇について柔軟に対応していくため、入口から一貫して支援している者、出口支援の予定者、刑務所の処遇担当の職員との間でのケース会議で策定された処遇方針として、執行を停止し、外部での治療や介護、就労などに結びつけるのが相当とされた場合には、それらの者からの職権発動の申し入れを検察官が積極的に受け入れるなど、運用状況を改善する必要がある。

(8) 連続性の確保

収容前の医療情報、「社会記録」等を刑務所における処遇に反映させる。また、刑務所における処遇内容を釈放後の医療、福祉に連続させる。


3 「出口支援」の強化

(1) 受刑者にとって、出所後の居住先、就労先、必要に応じた受け入れ福祉施設、医療施設の確保は、決定的である。「再入者」を減少させるポイントはここにある。換言すれば、すべての処遇はここに結実されるように、一貫した目的意識をもってなされるものでなければならない。

ここが改善、改革されれば、「出所後10日でまた万引をして逮捕された」というような悪循環を断ち切ることができるだろう。

(2) 更生保護法82条は、社会復帰を円滑にするため必要があると認める時に、受刑者等の生活環境調整を行うものとしている。厚生労働省は、高齢者、障がい者の生活環境調整を充実させるべく、2009(平成21)年度に「地域生活定着支援事業」を開始し、地域生活定着支援センターの設置を始めた。2012(平成24)年度にはセンターの全都道府県設置が完了し、同年度から実施されている「地域生活定着促進事業」により、センターの役割は、退所後の受入福祉機関に対するフォローアップ等にも拡大されている。

全国地域生活定着支援センター協議会による調査結果によれば、5年間〔2009(平成21)年7月〜2013(平成25)年度末〕にセンターが支援した対象者4493人のうち、再入所者の割合は5.92%とのことであり、同事業による成果が現れている。国は、刑務所内に社会福祉士、精神保健福祉士の配置を進め、さらなる再犯者減少を目指している。

(3) しかし、現状、出所者に対する支援が行き届いているとは言い難い。

地域生活定着促進事業における「特別調整」は、高齢又は障がいがあり、かつ、帰住予定地が確保されていない希望者を対象としている。しかし、出所後の社会生活に支援を必要とする者が、そのような場合に限られないことは言うまでもない。また、本来「特別調整」の対象となるべき者が、障がいが見逃されたり、本人が希望しないとの理由で網からこぼれ落ちている事例も相当数あろう。

「特別調整」対象とならない場合には、「一般調整」として生活環境調整が行われることとなっているものの、センターの職員や刑務所内の福祉専門職の数は限られている。矯正統計年報によれば、2014(平成26)年に満期釈放となった1万0726人のうち、適切な帰住先がないと思われる者は5696人(53.1%)に上る。また、支援の難しい者の受け入れに消極的な更生保護施設や他の民間福祉施設も少なくなく(福祉による選別)、先の統計にも、犯罪傾向が進み、支援が必要な者ほど支援を受けられない状況に陥っていることが現れている。

(4) 現状に対し、刑務所、センター等に対する予算的措置の拡大が必要であることは明らかであるが、これを待つ暇はない。各関係機関はさらなる連携を深めるとともに、広い社会資源と連携する途へと広げていかなければならない。



 第3 まとめ

1 連続と連携

この宣言の重要なポイントは、「連続と連携」である。

(1) 司法と行刑の連携

従来、裁判官・検察官・弁護人は、刑事裁判が判決により終結すれば、それで役割を終え、その刑事裁判によって実刑判決を受けた者が刑務所に入所した後、刑務所での処遇に関わることはほとんど無かったと言ってよい。

しかし、実刑判決を受けた者の再犯防止のための処遇という観点からすれば、刑事裁判に関わった者が、刑務所での処遇や出所の際の出口支援に関わった方が、一貫した支援が可能となり、再犯可能性をより低くできるといえる。その意味で、刑事司法と行刑との連携は必要不可欠と言える。

(2) 情報の共有

まずは、刑事裁判の過程で明らかになった、犯罪の原因、その者の特性や障がい、その者に必要な社会的支援についての情報が、適正な手続きが担保されることを条件に、刑務所に伝えられ、刑務所内での処遇や出口支援における再犯防止のための処遇方針・処遇方法の決定に活かされるべきである。

(3) 情報の共有のための運用の改善

それには、その者に刑事裁判から出所後まで関わることが可能な、弁護士や福祉関係者に期待される役割は大きい。

そこで、受刑者が手紙で連絡する以外に収容刑務所を知る方法がない現状を改善し、弁護士が受刑者に容易にアクセスできるようにすることが必要である。

さらに、受刑者の社会復帰支援に当たる弁護士、福祉関係者との外部交通については十分に機会が図られるべきである。

このように刑事裁判の内容を知る弁護士や、その弁護士と連携する社会福祉関係者が、収容後も受刑者と十分にコミュニケーションがとれる体制を取った上で、刑務所での処遇計画作成にあたり、その弁護士や福祉関係者が、出口支援の予定者を含め、刑務所の処遇担当の職員との間でケース会議を開催する機会を確保し、刑務所の処遇計画に反映される必要がある。


2 弁護士、弁護士会がなすべきこと

われわれ弁護士は、前述のような役割、責任を自覚し、表面的に反省を獲得するだけの司法から脱却して、再犯防止、再入所防止の実効性を高める活動をしなければならない。

逮捕後の入口支援の段階で、精神障がい、知的障がい等が判明した場合は、これら障がいの特性をよく理解した上で良好なコミュニケーションを図らなければならない。場合によっては、不当な供述調書を作成させないなどの取調べ対策をとることも必要である。更に、医療・福祉関係者との連携を深めることも必要な場合があり、早期の身体拘束解放に務める。

更に、出口支援にも積極的に関わるのはもちろん、刑事裁判から出所後まで関わることが可能な弁護士が「中間」の刑務所内での処遇に積極的に働きかける必要がある。

刑事裁判を担当した受刑者と受刑中もコミュニケーションを図り、処遇計画作成のために情報を提供し、ケース会議を要請するなど処遇要領の作成・変更・実施に積極的に参与していくことが重要である。処遇要領上、必要であれば、執行停止・仮釈放のための職権発動の申し入れも弁護士が主導して行うべきである。

もちろん、弁護士がこれらの活動をするのに、国選弁護人の活動領域の拡大や総合法律支援法の改正など財政的措置制度は必須である。具体的には、在宅で罪に問われた被疑者への国選弁護制度の拡大や、罪に問われた人が不起訴になった後の支援、執行猶予付判決が出された後の支援、あるいは、実刑判決が出された後の処遇や刑務所出所後の支援活動に、弁護士が関わることのできる仕組みを、国が作り、費用支出が可能となるようにすることが必須である。

しかし、これら課題解決を悠長に待つことは許されない。今、われわれはできることから始めていかねばならない。


以上

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