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自由な社会を守るため、秘密保全法制定に反対する決議

 政府は、秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議の「秘密保全のための法制の在り方について(報告書)」を受け、秘密保全法案の制定を目指している。
 上記報告書による秘密保全法の内容は、@「特別秘密」という曖昧かつ広範な概念をもって保全すべき秘密を定め、A特別秘密を漏えい等する行為に対し広く重い刑罰を科すとともに、B特別秘密を取り扱う者を管理する適性評価制度により人間まで管理することで、秘密を保護しようとするものである。
しかし、これが成立すると、国民主権、民主主義という憲法原理を破壊するにとどまらず、知る権利、プライバシー権等の国民の基本的人権を著しく侵害するものであることは、以下の理由により明らかである。
 まず、特別秘密の定義が「厳格な保全措置の対象とする、特に秘匿を要する秘密」という極めて曖昧なもので、しかも、当該秘密を保有している当の行政機関自身が特別秘密の指定を行うことから、国民に知らせたくない情報は、すべて特別秘密に指定することさえ可能となる。また、特別秘密の対象は、国の安全・外交に関する情報だけでなく、公共の安全及び秩序の維持に関する情報まで含むことから、ありとあらゆる情報が特別秘密の対象となり得る。恣意的な特別秘密の指定により、恣意的に情報操作がなされることで、行政機関が主権者たる国民をコントロールすることを可能とするものである。
次に、処罰規定が罪刑法定主義に違反する。特別秘密の範囲が不明確であることに加え、処罰される特別秘密の漏えい行為には、過失や実行行為を要しない独立教唆、煽動、共謀まで含まれ、処罰範囲が非常に広範かつ不明確になるからである。
 また、取材の自由に対する影響も甚大である。特定取得行為の名の下、取材で特別秘密を入手しようとする行為をも処罰される可能性がある。これらの処罰規定の結果、必要な情報が公表されない一方で、マスメディアが取材等を控えるようになることが懸念される。
さらに、特別秘密に指定された情報は、情報公開の対象外となることから、政府としては、情報公開制度によって開示されたくない情報を特別秘密に指定することで、情報公開法制を完全に骨抜きにすることができる。現状の情報公開法でも、外交、防衛、公共の安全及び秩序の維持に関する情報の非開示決定を訴訟で覆すのは極めて困難である。秘密保全法によってこれらの情報が情報公開法の対象情報から外れるとなると、外交、防衛、公共の安全及び秩序の維持に関する情報については、市民は国から提供された情報に依拠するしかない状態となり、情報公開制度は死滅する。
 特別秘密を取り扱う者に対する適性評価制度に関しては、当該人物のプライバシー等の機微情報が調査されるばかりか、当該人物の行動に影響を与え得る者をも調査の対象としていることから、調査対象者が無限に広がり、多くの国民が政府に調査され、管理されるおそれがある。
 そもそも、秘密保全法検討のきっかけとされる尖閣諸島沖漁船衝突映像の流出事件についても、中国人スパイ疑惑についても、秘密保全法を立法化するための立法事実にはならない。我が国では、現在においても、国家公務員法、自衛隊法等で、国家秘密の保護が充分なされており、秘密保全法を導入する必要性は全く存しないのである。
 以上のように、報告書が導入を提言する秘密保全法は、憲法の定める国民主権原理に反するばかりか、市民のプライバシーをも侵害し、市民を監視下におくものであり、市民の自由を著しく踏みにじるものである。しかも、同法の制定は、市民の権利に重大な影響をおよぼすものであるからこそ、その立法過程に国民的な議論が必要不可欠であるにもかかわらず、有識者会議は、検討内容に関する議事録すら作成せず、国民的議論の抑制をも意図していることが窺われる。
 我が国が今なすべきことは、市民を監視し、情報を秘密のヴェールに包むことにより、徒に外国との緊張関係をつくることではない。公開がこれまで不十分であった外交、防衛、公共の安全及び秩序の維持に関する情報が公開されやすくすることで真の国民主権原理を実現するよう努めるとともに、外国から民主主義国家としての信頼を得ることこそが必要なのである。そして、これらを実現し、自由な社会を守るために、当連合会は、以下の事項を目的として行動していくことをここに確認する。

  1. 1 外交、防衛、公共の安全及び秩序の維持に関する情報が何人に対しても適切に公開されるよう、情報公開法の改正を実現すること。
  2. 2 検討委員会及び有識者会議における立法過程の透明化を求めること。
  3. 3 秘密保全法案の国会提出を断念させること。

 以上のとおり、決議する。



        2012(平成24)年10月19日


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